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スペシャルティコーヒーの優等生
コスタリカ
スペシャルティコーヒーの産地として「コスタリカってどんな国ですか?」と聞かれたら、
「何を飲んでもけっこうおいしい、優等生みたいな国です」
こう答えます。
近年のコスタリカ産コーヒーはベースの品質が高く、スペシャルティコーヒー専門店で何にするか迷ったらとりあえずコスタリカを選んでおけば(※)、かなりの確率でおいしいものにありつけます。
※アナエロビックなどの特殊加工品はスペシャルティコーヒーと見なすべきではないので除きます
今回の特集では、そんなハイレベルな生産国であるコスタリカの中でも“堀口珈琲が選りすぐった最高品質のおいしさとその背景”を紹介していきます。
輸出業者の品質管理担当と当社バイヤーが現地でテースティングしている時に
「お前らは “最高峰のロット”ばかり選ぶよな」
と皮肉まじりの褒め言葉をいただくほど素晴らしいコーヒーたちが揃っていますのでどうぞお楽しみください。
コスタリカのおいしさの“神髄”とは
商品紹介に入る前にコスタリカの基本的な味わいを把握しておきましょう。
サードウェーブという言葉が流行した2010年代以降、ナチュラル・ハニーといった風味を加える精製やゲイシャ・SLなど特徴的な風味をもたらす品種による“変わった味わい”がコスタリカのおいしさのメインストリームであるかのように語られがちです。
しかし、コスタリカのおいしさの“真髄”はもっと別のところにあります。
コスタリカの基本のおいしさは、
・とてもクリーン
・しっかりとした柑橘の酸
・しっかりとした質感
・ほのかなフローラル
これらにあります。


ここで“しっかりとした柑橘の酸”と聞いて
「酸味のあるコーヒーなのか、じゃあ苦手だな」
と逃げ出す人が続出するかもしれませんがちょっと待ってください。
果物において、さまざまな料理において、風味を構成する上で酸味はとても大切な役割を果たしています。
もちろん、渋みを伴うきつい酸味のコーヒーを「コーヒーは果物ですから」と提供するのは感心しません。
しかし、本当に良い素材を適切に焙煎し抽出したコーヒーでは、酸味は味わい全体に調和し、おいしいさを形作る重要な役割を果たしてくれます。浅煎りでも深煎りでも。
おいしくない酸味が存在することは事実ですが、「酸味」という字面だけで毛嫌いしないでね、というお願いでした。
さて“基本のコスタリカのおいしさ”に戻りましょう。
「とてもクリーンで、しっかりとした柑橘の酸、しっかりとした質感、ほのかなフローラル」
でした。
あれ?と思った方。最近の特集ページをよくご覧になっていただいていますね。
そうです。少し前に特集したグァテマラのアンティグア産に似通ったコメントが書かれています(まだ読んでいない人はこの記事を読んだ後にアンティグア特集にも目を通してみてください)。
コスタリカとグァテマラは同じ中米の生産国です。当然おいしさのベクトルは似通ってきます。
でも少し異なるワードが加わっています。
“しっかりとした”という形容詞です。
同じ中米産でもコスタリカはしっかりとした味、はっきりとした味が表れやすい産地です。
微妙な違いに見えるかもしれませんが、実際に口にしてみると明瞭な違いです。
この違いを味わい分けて楽しむことこそが“スペシャルティコーヒーらしいコーヒーの楽しみ方”です。


今回楽しんでいただくコスタリカは「ベーシックを突き詰めるとここまで辿り着いてしまいます」というコスタリカのおいしさの“神髄”を体現したコーヒーたちです。
私がどっぷり浸かってしまっているように“コスタリカ”という産地にハマるきっかけを作ってくれるでしょう。
堀口珈琲の誇るロースター陣の対応力も見逃せません。最高峰の素材に対しそれぞれの個性に応じておいしさを取り出しわける焙煎が的確に施されています。
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コスタリカの“神髄”を体現するコーヒー3選
ではコーヒーを飲んでいきましょう。
1.「【モンテス・デ・オロ】ジャサル」
シティロースト
トップバッターはジャサルのシティローストです。
最初からすごいコーヒーを選んでしまいました。堀口珈琲のスタッフに一番好きなコスタリカは?と聞くとジャサルをあげる人が続出します。
マイクロミル(※)というコスタリカを象徴する生産形態の先駆けであり、名門の【モンテス・デ・オロ】が所有する農地の1つです。2代目のエミリオさんが最高品質へのチャレンジとして標高2,000mを超える場所でコーヒー栽培を始め、2014-2015年に初収穫のコーヒーが堀口珈琲に届きました。たった1袋しかありませんでしたが、その“エレガント”さに驚愕し、それから毎年届けていただいているコーヒーです。
※マイクロミルとは…コーヒーチェリーの加工場(精製施設)を所有し、栽培から精製までを自らの手で施す小規模生産者。詳細は後述します。
飲みます。
まずクリアな液体を感じてください。
クリーンが基本のコスタリカの中でも際立ったきれいさが感じられます。一口飲んで「きれいなコーヒーだなー」と口にしてしまいましょう。
次に特徴をとらえていきます。
柑橘の酸が明瞭に感じられます。
それからシルクのような心地よい質感が口中に広がり、甘みと相まってほのかにミルクチョコレートのニュアンスが表れてきます。
飲みくだしても柑橘と甘さは余韻に残りつつ、フローラルとスパイスが渾然一体となって鼻から抜けていく頃には「おいしいなこれ」とつぶやいているでしょう。
最後に、口に含んでから飲みくだすまで、引っかかりが全くなかったことに気づいてもう一度驚きます。
コスタリカの基本の風味「とてもクリーンで、しっかりとした柑橘の酸、しっかりとした質感、ほのかなフローラル」をこれでもかというほど体現してくれつつ、クリーンさが際立つことで“かろやかに”飲み干せてしまう素晴らしいコーヒーです。
【推奨のレシピ】




【抽出時のポイント】
「濃すぎず、軽すぎず」バランスの良さを意識します。抽出開始から30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを徐々に早くしていきます。
【一緒に買って楽しむならこのコーヒー】
・グァテマラ「サンタカタリーナ農園グランレゼルバ」シティロースト
グァテマラ・アンティグア産と飲み比べてみることで、コスタリカの基本の風味をより明確に捉えることができます。
・エチオピア 「【ゴティティ】ハロ・バンティマウンテン」シティロースト
中米産と東アフリカ産の“華やかな香り”の違いが楽しい組み合わせです。
2.「【ロス・アンヘレス】ベンダバル」
フルシティロースト
続くコーヒーはベンダバルのフルシティロースト。
え?コスタリカ、それもドタ・バレー産をフルシティにするの?スペシャルティロースターであればちょっと戸惑うことでしょう。なぜなら、フルシティという焙煎度“らしさ”とコスタリカのドタ・バレー産“らしさ”は本来相反するものだからです。自信がなければやらない、できない、ロースターにとって綱渡りの高難度コーヒーです。
有名生産者がひしめく谷・ドタバレーのとある農地を歩いていたとき、ふと対岸の斜面を眺めると目に映った農地が「ベンダバル」でした。地形的に面白い位置にあり、標高は一目で高いとわかる、でも周りに別の農地はない。当社バイヤーの気になるセンサーが反応し所有者を確認すると、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの注目マイクロミル【ロス・アンヘレス】でした。さっそく話を聞きに行くと、彼らも品質に自信をのぞかせる新たに取得した農地でした。
飲んでみましょう。
ほろ苦さから始まります。
すぐにしっかりした甘さが訪れ、なめらかな口あたり・舌ざわり、濃度・密度の高まりが感じられます。
フルシティという焙煎度のおいしさがしっかり楽しめる仕上がりです。
ここまでで十分おいしいコーヒーですが、ここからがこのコーヒー特有のおいしさ、楽しさです。
後口を意識しましょう。軽やかでクリアです。瑞々しさすらあります。
そして、やっぱりコスタリカらしい高いトーンの柑橘が潜んでいます。華やかさまでも伴って潜んでいます。
なめらかさや密度・濃度というフルシティらしさと、瑞々しさやコスタリカらしい柑橘は、本来相反する要素で調和しないものです。
ベンダバルという最高品質の素材をロースターの知識と技術によって的確に手なづけることで実現するウルトラCな仕上りです。
【推奨のレシピ】




【抽出時のポイント】
シティローストよりも濃度感を出し、口当たりの良さを引き出すように意識します。抽出開始から35~40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、65秒程度を目安に抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースで。
【一緒に買って楽しむならこのコーヒー】
・ルワンダ「【マチアゾ】ルウェセロ」フルシティロースト
こちらもなめらかで華やかなフルシティ。余韻に感じられる黒系果実の華やかさはこのコーヒーならでは。
・ブラジル 「セルカ・デ・ぺドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」 フルシティロースト
異なる個性を楽しめるブラジル産のフルシティ。アーモンドのような香ばしさを伴った甘みが特徴的です。
3.「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」
フレンチロースト
最後に紹介するのは「オルティス2000」。
2013年に出会い、コスタリカコーヒーがそれまでとは別の次元に到達していることを教えてくれたコーヒーです。
コスタリカにおいて2,000mを超える標高でのコーヒー栽培が一般的になったのは2010年代に入ってからでしょう。気候変動が大きな要因であることは間違いありませんが、生産者の技術・知識の高まりチャレンジ精神によって生まれたコーヒーでもあります。
オルティス2000も当主オマールさんが新たな環境にチャレンジし適応したことで生まれた、新たな品質のコスタリカコーヒーの先駆けです。
今度はフレンチローストで仕上げます。
さあ飲みましょう。
アタックは深煎りらしくしっかりと苦みがあります。といっても澄んだとてもきれいな苦みです。
スルッと粘性のある液体が心地よく口の中に広がります。柔らかく、とてもなめらか。
そしていつの間にか甘い。とても甘い。
それからほのかな柑橘が表れ、軽やかにフィニッシュします。
鼻に抜ける香りにはフローラルな華やかさが伴います。
深煎りなのにかろやか華やか。ブレンド#8に通ずるエレガントな深煎りの世界が表れています。
2023-2024収穫のオルティス2000は素晴らしい出来であることがきっと伝わるはずです。
【推奨のレシピ】




【抽出時のポイント】
深煎りらしい濃度感を出すため、焦らずじっくりと、濃い液体を抽出しましょう。抽出開始から40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、70秒程度を目安に抽出液のポタポタが線状になるように。
【一緒に買って楽しむならこのコーヒー】
・グァテマラ「サンタカタリーナ農園グランレゼルバ」フレンチロースト
オルティス2000と同様に標高2,000m〜の高標高農地が生み出す濃縮感のある味わいを楽しめる深煎りです。
・ケニア 「カムワンギファクトリー」 フレンチロースト
華やかな深煎りという共通点がありつつ異なる個性を楽しめるケニア産。深煎りの多様さを実感できる組み合わせです。
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なぜコスタリカはおいしいのか
しっかりとコスタリカの味わいを堪能しましたので、ここからはその背景、コーヒー産地としてのコスタリカについて知識を深めていきましょう。


いきなり中央アメリカ
図ドーンで始まりましたが、そもそもどこですかここ?という人も多くいるでしょう。日本に住んでいるとあまり馴染みのない地域ですしね。
でもスペシャルティコーヒーにとっては非常に大切な地域で重要生産国がひしめいています。様々な素晴らしいコーヒーたちが産出されるので、この機会にインプットしておきましょう。
まずはざっくり、
カナダやUSAのあるでっかいところ北アメリカ、
コロンビアやブラジルのあるやっぱりでっかいところ南アメリカ、
その間にある細いところ“中央アメリカ”、“中米”です。
“中央”と言いつつも赤道はもっと南ですので北半球に位置しています。
どんな国があるか上の地図で確認して、これから少しずつインプットしていきましょう。
今回取り上げている「コスタリカ」だけはマストでお願いします。
なぜコスタリカはおいしいのか
ベースにある要因その1
では、コスタリカについて知っていきましょう。
コスタリカという国を紹介しようとすると、つい取り上げてしまいたくなるのが、次の2つです。
・軍隊を廃止して教育や医療の予算を厚くしている
・環境立国
ここからホセ・フィゲーレス・フェレール大統領が―、識字率が―、といった解説に走りそうになりますが、思いとどまってこれら2点がコーヒー生産にも影響を与えているという視点で少し見てみましょう。
まず、1949年に軍隊を廃止して教育予算を厚くしたことにより、コスタリカはバナナ・コーヒーを中心とした農業国から工業国へと転換していきます。首都に近い地域では都市化が進み、かつての有名産地であったトレス・リオスのコーヒー農地はほぼ消滅してしまいました。セントラルバレーでもコーヒー農地は減少しつつあります。
さまざまな産業の発展に伴い経済的にコーヒーを中心とした農業は最も重要な産業ではなくなっていったのです。
一方で、教育水準の高まりと共に、コーヒーの栽培や加工の知識・技術は向上していきます。特にスペシャルティコーヒー市場の誕生以降、コスタリカのコーヒーは生産性を確保しつつ品質を飛躍的に向上させることに成功しています。設備・技術・流通を発展させた先進的な姿は“スペシャルティコーヒー生産の先進国”と言えるでしょう。
続いて、環境立国としての側面がコーヒー生産に与える影響について見てみましょう。
国土の4分の1が国立公園や自然保護区に指定され、その豊かな自然環境から映画「ジュラシックパーク」のロケ地になり、国内のエネルギーの98%以上が再生可能エネルギーによって供給されている、……といったトピックをさらっとご紹介しつつ、ここでは「水質保護」の政策に注目します。


コーヒーの精製工程において、伝統的なウォッシュト精製は多くの水を必要とします。種子を覆う殻に固着している粘質物(ミューシレージ)を発酵させて取り除きやすくした後、水で洗い流して除去するためです。コスタリカもかつてはこの方法が主流でしたが、2000年頃から水質保護を目的として排水量が制限されるようになり変革を迫られます。 この制限にも後押しされ、機械によって粘質物(ミューシレージ)を除去することで水の使用を低減するウォッシュト精製が普及していきました。
従来のウォッシュトによって得られる良い点・ならではの風味はありますが、経験・勘・労働力に頼りがちで不安定な手法でもあります。機械式のウォッシュト精製は従来のウォッシュトと比べ安定性は担保しやすい加工法で、機械を駆使する知識・技術が備わっていれば優れた品質を実現できます。水の制限と技術力、コスタリカという国の背景にマッチしたで手法でしょう。
追加的な情報になりますが、新しい設備の普及はコスタリカのコーヒーに新たな発展をもたらします。さまざまなハニー精製です。機械的に粘質物(ミューシレージ)を除去するということは、機械の設定によって除去量を調整することができます。意図的にミューシレージを残す、残す量を調整することでコーヒーの味わいに変化をつけられるのです。 スペシャルティコーヒーの基本の加工はウォッシュトですが、水の制限に端を発した設備の普及は風味にバリエーションをもたらす加工技術の発達にも繋がりました。
✔ さまざまな産業が発展したことにより、経済的にコーヒーが最も重要な産業ではなくなったものの、教育水準の高まりと共にコーヒー生産者の知識・技術水準も高まった
✔ 自然保護の観点から水の使用が制限されたことにより、コーヒーの加工技術が独自の発展を見せ、知識・技術の高さと相まって全体的な品質の底上げにもつながった
なぜコスタリカはおいしいのか
ベースにある要因その2
もう1つコスタリカのコーヒーにおいしさをもたらしたもの。
それは、量から質への転換と、それに伴う栽培品種の制限です。
意外かもしれませんが、コスタリカはかつて品質よりも生産性(量)を重視する生産国でした。
大農協や大農園、大手輸出業者の所有する精製施設が小規模生産者の栽培したコーヒーチェリーをどんどん買い取り、品質関係なく周辺地域のものと一緒くたに加工し、どんどん輸出していくというスタイルです。
この仕組みでは品質にこだわってコーヒーチェリーを栽培しても買取価格にはあまり反映されません。生産者の収入は品質でなく、生産量とコーヒー相場に左右されることになります。
生産量を追求する栽培、その後の大量加工・流通スタイルは、コスタリカ=量の国・低品質という印象を定着させていくことになります。
1989年、この状況を転換させることが起こります。国際コーヒー協定の終了に伴うコーヒー相場の暴落。いわゆるコーヒー危機です。
コーヒーの市場取引価格は極めて低い水準まで暴落し、量を追求した生産国のコスタリカは大打撃を受けました。
特に小規模生産者は生計を維持するのが困難なほど深刻な影響を被ります。
この大きなショックがきっかけとなり、コスタリカにおいて量から質に向けたトレンドの転換が始まります。


転換1: “カネフォラ種の栽培禁止”
コスタリカは世界でも珍しく、品質の観点からカネフォラ種の栽培を法律で禁止し、風味に優れるアラビカ種を奨励しています(カネフォラ種は、病害虫に強く生産性が非常に高いことから一般的に安価である一方で、苦味・渋みが強いためレギュラーコーヒーとしての飲用には適さず、主に缶コーヒーやインスタントコーヒーに使用される種)。
その後も、法律では禁止していないものの、アラビカ種の耐病性を高めるために開発されてきたハイブリッド品種※も風味の観点から推奨しておらず、カトゥーラ品種やカトゥアイ品種といった非ハイブリッドアラビカの生産を薦め、高品質化をはかっています。
※カネフォラ種と交配し耐病性や生産性を獲得した品種
転換2:“マイクロミルの登場”
残念ながらコーヒー危機に端を発した小規模生産者の経済的困難は2000年台初頭まで影響を色濃く残すことになります。
そんな状況を打破するために、一部の小規模生産者が“栽培から精製まで”自らの手で施し付加価値を高めて販売しようと企てました。
こうして生まれたのが小規模加工場「マイクロミル」です。


大量のチェリーを品質関係なくかき集め、一気に精製し大量に仕上げる、といった作りから、
高い品質のチェリーをしっかり栽培・収穫し、個別に丁寧に加工するという、
真逆の生産、品質重視の生産への転換に活路を見出そうとしたのです。
小規模と言っても一生産者が投資するには過大な資金が必要です。前例のないことに銀行からの支援も得るのが難しかったでしょう。
そういった困難に最初に飛び込んでいったチャレンジャーの1つが今回取り上げているモンテス・デ・オロです。
✔ 品質の観点から栽培する種を制限し、かつ「カトゥーラ」「カトゥアイ」というある程度の生産性を有しつつ品質的にも優れた品種が主要な栽培品種として選択されていることがコスタリカの基本のおいしさを下支えしている
✔ 小規模農家がコーヒーチェリーの加工場(精製施設)を作り、栽培から精製までを自らの手で施す「マイクロミル」の発達により、ベースの品質が向上した
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なぜ堀口珈琲のコスタリカは
"とっても"おいしいのか
2010年台に入るとスペシャルティコーヒー市場が市民権を拡大し、さまざまな生産国が付加価値の高いコーヒーを作ろう、特徴的な風味のコーヒーを作ろうと目まぐるしい変化が起きました(それが現在のスペシャルティ市場にも功罪双方の影響をもたらしながら続いています)。
コスタリカにおいても、次々と新たなマイクロミルが設立されていき、“品質追求型の小規模生産”が合言葉のように広がりムーブメントの様相を呈しました。
このムーブメントは大規模な加工場にも影響を及ぼし、コスタリカコーヒー全体の品質を高めたと言って良いでしょう。


ただ、マイクロミルのコーヒーであればなんでもスペシャルティコーヒー、素晴らしいコーヒーという誤解も同時に広まったように思います。
優れた生産環境や技術・知識が伴わない中でなんとなく小規模生産を行っても、素晴らしい品質に仕上がることはありません。
ある意味、“あたり前”のことです。
しかしながら、ムーブメントは“あたり前”を吹き飛ばしてしまう勢いをもたらし、マイクロミルならなんでもスペシャルティといった風潮に繋がっていきます。
マイクロミルのムーブメントはコスタリカコーヒー全体の底上げに寄与し、これまでにない素晴らしいコーヒーも生み出しました。これは事実です。しかし、マイクロミル=スペシャルティ、マイクロミル=最高品質ではありません。


では最高品質のコスタリカコーヒーを継続的に手にするにはどうしたら良いでしょう?
答えは1つではないと思いますが、堀口珈琲は次の行動をとりました。
ステップ0:
日本で手に入るコスタリカコーヒーをひたすらテースティングして全体的な風味傾向を再把握する。
ステップ1:
収穫期に産地訪問しできるだけ多くのマイクロミルを周り自分の目で環境を見る。それからしっかり生産者に取材する。
ステップ2:
現地でできるだけたくさんテースティングする。さらにできるだけたくさんのサンプルを送るよう入念に依頼する。
ステップ3:
取材した情報を整理し、テースティング結果と照らし合わせ、良さそうと判断したマイクロミルのコーヒーをできるだけ多く買い付ける。
ステップ4:
再度産地訪問し、買い付けた生産者を訪問して入念に取材する。初回の産地訪問は1日7-8軒回るのに対しこちらは1日3軒程度に留める。
ステップ5:
農地の様子や環境、設備の手入れ、知識、考え方、人柄とコーヒーの味わいの傾向を総合して継続的に買い付けるか決める。
ステップ6:
選抜したコーヒーは一定水準の品質を下回らない限り継続的に買い付け、品質改善をリクエストし続ける。
……普通すぎてちょっとワクワク感が足りませんでしたしょうか。ステップも多いですし。
ただ、このステップを踏んだからこそ、輸出業者担当者からも「いいものばっかり選ぶよな」と言われる素晴らしいコーヒーたちが集まったのです。
第2章で紹介した3つのコーヒーもこのステップを踏む中で出会い、継続的な関係性を構築してきた生産者たちのコーヒーです。
✔ マイクロミル=スペシャルティ、マイクロミル=最高品質、という訳ではない
✔ 堀口珈琲のコスタリカは、テースティングと産地訪問を繰り返す中で出会った最高品質のコスタリカコーヒー


「何を飲んでもけっこうおいしい優等生みたいな国、コスタリカ」
記事の冒頭でこのように言いました。
その中で、堀口珈琲のコスタリカは?
「何を飲んでも“とっても”おいしい」です。
そう自信たっぷり言い切れるのは、ここまで語ってきたような背景があるからです。
たくさん種類があって迷うかもしれませんが、どうぞ安心して選び、コスタリカの“神髄”をお楽しみください。