TOP GORO BEDESSA!-スペシャルティのエチオピア、その到達点を味わう-
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堀口珈琲が辿り着いたエチオピアコーヒーの“最高峰”
今回の特集で取り上げる産地は、みんな大好きエチオピアです。
タイトルを見て期待が高まっている人も多いのではないでしょうか。
堀口珈琲のスタッフも大好きな産地です。


今回の特集ではそんなエチオピアの中でも名産地中の名産地である“イルガチェフェ”と“グジ”にフォーカスします。
もちろん他の地域にも素晴らしいエチオピアコーヒーは存在します。まずは広くエチオピアを特集するのが、スペシャルティコーヒーを伝えていく堀口珈琲の役割だと自認しています。しかし、今回はそんな優等生的考えを一旦横においてでもイルガチェフェ・グジ地域に注目します。
優等生的考えを吹き飛ばす素晴らしいイルガチェフェ・グジのコーヒーが用意できたからです。
その名も「ゴロ・ベデッサ」。
「これがエチオピア“最高峰”のコーヒーです」と言ってしまって良いのでは?とさえ思えるほど素晴らしいコーヒーです。
エチオピアファンはもちろん、スペシャルティコーヒー愛好者は絶対に体験してください。
と、ここまで盛り上げたので手元にコーヒー豆が届いたらまずは我慢せずにぱっと飲んでしまいましょう。でも記事を読みながら飲んでもいただきたいので、次のステップでいきましょう。
1) すぐに淹れて飲んでみます。すると「おっ、これおいしい」と思っていただけます。二口目に向かう前に一口目の余韻で「このコーヒーすごいかも」と思っていただけます。
2) 2章を読みながら一緒にテースティングしましょう。よりおいしさを明瞭に捉えることができます。ますますこのコーヒーに対して「すごい」と思っていただけるでしょう。
3) 3章・4章を読んで、産地や生産者と堀口珈琲の取り組みを知ってください。この素晴らしいコーヒーが私たち消費国からの働きかけと産地側の努力の積み重ねによる結晶、“宝石”のようなコーヒーであることがわかります。そして、それを知った後の一口は、さらに奥深く、素晴らしい体験になるはずです。
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ゴロ・ベデッサを味わう
一杯目、さっそく楽しんでいただきましたでしょうか。
ハイローストでは、「華やかな香りと瑞々しい果実感」
シティローストでは、「コーヒー感と充実した果実味」
フレンチローストでは、「濃厚な味わいと華やかで甘い果実の余韻」
こんな感覚を「ああおいしいな」と一緒に感じていただけたかと思います。
では、次は一緒にテースティングしていきましょう。
1.ハイロースト
まずは、ハイロースト(中浅煎り)です。
【用意するコーヒー】
エチオピア 「ゴロ・ベデッサ」 ハイロースト
【抽出のコツ】
ハイローストは明るく快活な酸味や華やかな香りを「かろやか」に楽しむ浅煎りのコーヒーです。濃くいれすぎるときつい味になってしまうので、抽出は「さらっと、かろやかに」が基本です。


<ポイント>
粉量に対する抽出量は3つの焙煎度の中で最も多い(=濃度が最も薄い)レシピです。
注ぎ始めは少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させ、20秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして40秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。
その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
【味わい】
まず果実から始まります。
柑橘に白桃やマスカットといった果実が加わり充実した果実が感じられます。
続いてフローラルな華やかさが口中に広がります。スパイスの要素もいます。飲み下す際に鼻に抜けていきます。
しっかりと感じられるフローラルな華やかさとスパイスに充実した果実が同居することが感じられましたでしょうか。
これがイルガチェフェ・グジ地域の優れたコーヒーに共通で感じられる特性です。
ここでもう一度じっくり果実を感じてみましょう。赤系果実がいますので見つけてみてください。イルガチェフェ・グジ地域の中でも、この赤系果実が加わってくるのがゴロベデッサのあるハンベラ地区によく見られる特徴です。果実の要素がより充実し、複雑な風味をもたらします。
口に含んだ印象は“みずみずしい”が主体です。
酸味や華やかさと共に快活さを演出してくれます。
そこに少しだけ粘性が加わることで“なめらか”を感じます。
軽やかに口の中に広がり、なめらかに舌の上にのって飲み下されていく、こんな感覚です。
余韻に移る頃に甘みが現れ、口に残る果実の酸をより心地よく感じさせてくれます。同時に華やかさが鼻から抜けていきます。
2.シティロースト
続いて、シティローストです。
【用意するコーヒー】
エチオピア 「ゴロ・ベデッサ」 シティロースト
【抽出のコツ】
シティローストはほろ苦さや滑らかな質感を感じつつも、浅煎りに通ずる華やかな香り、きれいな酸味も感じることができる焙煎度です。抽出も「濃すぎず、薄すぎず」バランスの良さを意識しましょう。


<ポイント>
注ぎ始めは少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
【味わい】
今度はコーヒー感と甘みから入ります。
エチオピアでもここまできれいに仕上がっているウォッシュトは稀有です。そのクリーンさがシティローストのデリケートでやわらかい苦味とコーヒーらしい香り、そして甘みを心地よく感じさせてくれます。これだけでおいしさと品質の高さを楽しめてしまいます。
続いて果実感がやってきます。シティローストではハンベラらしい赤系果実が主体となって現れます。その後ろにはハイローストで感じられた柑橘など他の果実も潜んでいます。
そして華やかな香りがやってきます。フローラルとスパイス。スパイスと言っても甘みを伴うやさしいスパイス感です。
質感はとても“なめらか”。量感や密度感がありながら、角はとれていて緻密。存在感を感じさせつつも、軽やかな印象を与えながら口の中に心地よく広がり、いつの間にか喉を通っています。精度の高いクリーンカップとシティローストによってもたらされるお手本のような質感・心地よさと言ってしまって良いでしょう。
余韻は甘さと果実味が続き、華やかで甘い香りが漂います。
3.フレンチロースト
最後に、フレンチローストです。
【用意するコーヒー】
エチオピア 「ゴロ・ベデッサ」 フレンチロースト
【抽出のコツ】
フレンチローストはのうこうな味わいを楽しむために、抽出は「じっくり」いれていきます。


<ポイント>
注ぎ始めは少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして70秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。前半はシティローストよりもやや「じっくり」を意識します。
その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを徐々に早くしていきます。
3つの焙煎度の中で最も抽出量が少ない(=濃度が最も濃い)レシピですので、抽出後半もシティローストよりもゆっくり焦らずお湯を注ぎ、のうこうな液体に仕上げます。
【味わい】
なめらかな口当たりと心地よい甘苦さから始まります。
チョコレートを思わせるほろ苦く甘い風味に続いて感じられるのは、マスカットや白桃の甘く華やかな果実感。深煎りならではの濃密な味わいとエチオピアらしい軽やかさ華やかさが一体となって口の中に広がっていきます。
酸味は穏やかになりますが注目して味わってみると柑橘がしっかりと感じられます。赤系果実は焙煎の進行とともに黒系果実のニュアンスも帯びてきます。ハンベラ地区の深煎りならではの“複雑な果実感”。そしてフローラルやスパイスの華やかな香りが鼻に抜けていきます。
なめからな質感は、深く焙煎することで粘性や厚みが増します。しっかりとした飲みごたえを感じさせてくれながらも重たい印象はなく、心地よい量感と密度感を保ちながら、飲み下す頃には不思議と軽やかな印象を残します。
余韻には複雑な果実味が織りなす甘みが長く続き、華やかな香りとともにゆっくりと消失していきます。
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堀口珈琲のエチオピア史
私たちが「エチオピア最高峰かも」と思ってしまった一杯。いかがでしたでしょうか。
さて、ここからは「このコーヒーがどのように生まれてきたのか」に向かって産地を見ていきましょう。
コーヒー生豆を生産する環境特性がもたらす風味の要素を特徴として捉え楽しむ、スペシャルティコーヒーの原型です。しかし、コーヒー生産には生産者という“人”が必ず介在します。
環境と共に、環境に対応して、環境に翻弄されながら、生産者は生豆の生産を行っています。それぞれのコーヒーにはそれぞれの環境とそれぞれの生産者の活動が付随します。その双方が生豆に特徴を与えている。一歩踏み込んだスペシャルティコーヒーの捉え方です。
“生産環境”や“手がけた生産者”はもちろん、“商品づくりのきっかけ”や“堀口珈琲のエチオピアへのこだわりの歴史”など、さまざまな背景を知っていただき、“エチオピアの最高峰”とも言えるスペシャルティな一杯をさらに深めていきましょう。
キーワードは“理想のコーヒー”です。
1.堀口珈琲がこれまで扱ってきた生産地域おさらい


エチオピアのエリアマップです。
これまで堀口珈琲では地図に示した5つの地域のエチオピアコーヒーを取り扱ってきました。
1) ジンマ
一般的にはそこそこの品質の産地と捉えられているジンマ。ただ奥地に進むと標高2000mを超える高標高産地があり、優れたウォッシュトコーヒーを生み出すポテンシャルを備えています。今回味わっていただいたゴロベデッサのあるグジやイルガチェフェとの違いは「スパイスの要素」でしょうか。きれいな柑橘とみずみずしさが全面に表れた美しいコーヒーが期待できます。品質の精度が安定せず取り扱いを一時中断していますが、再開に向けて産地サイドとコミュニケーションをとっているので楽しみにしてください。
2) ハラー
エチオピアの中でも乾燥した気候でどこかイエメンに通じる風味のナチュラルを産出する産地。残念ながら近年は優れた品質のハラーは見かけなくなってしまい取り扱いも中断しています。
3) シダマ
イルガチェフェの品質に課題が発生した年に代替産地として開拓を試みたものの、品質と継続性の双方でイルガチェフェやグジをより注意深く深掘りすべきと判断して中断。その後コンテスト入賞ロットがこの地域から現れたことで注目を浴びるようになり、価格と品質のバランスも崩れてきてしまっていると評価しています。
4) イルガチェフェ
創業者である堀口俊英の時代から、堀口珈琲がその歴史のなかで常にこだわってきた産地のひとつです。今ではそこまでコーヒーに詳しくない人でも「イルガチェフェ」という単語を認識しているくらい有名な産地になりましたので説明不要かもしれません。フローラル・フルーティー・スパイシー、様々な言葉で形容されるアロマティックコーヒーの代表産地です。
5) グジ
今回取り上げたゴロ・ベデッサがある地域です。
イルガチェフェに隣接していて、風味特性から考えても“奥イルガチェフェ”と言いたくなる地域です。実際この地域のコーヒーが“グジ”として一般流通するようになったのは2010年代に入ってからで、それ以前はイルガチェフェとして流通していたと考えて間違いないでしょう。
グジの中でもハンベラやウラガといった地区は特に標高が高く、イルガチェフェの品質を高める要因になっていた可能性が高いです。
2.堀口珈琲のイルガチェフェ開拓は苦難の歴史?


1974年に「スペシャルティコーヒー」という言葉を初めて使ったアーナ・ヌーツェンさんが、スペシャルティコーヒーの代表例に取り上げた産地の1つエチオピア。
堀口珈琲もまた、1990年の創業当初から特別な個性を放つ産地としてエチオピア、特にイルガチェフェ地域のコーヒーに注目し、扱い続けてきました。
創業者の堀口俊英が生豆の買付に関わっていた頃、自らを「イルガチェフェマニア」と標榜するほど良質なイルガチェフェの入手に心血を注いでいました。
【20年前〜】
「イルガチェフェ」であること、「グレード2」といった「規格」、これくらいしかわからない、トレーサビリティが不明瞭な生豆しか存在しない時代でした。できる限り多くのサンプルを取り寄せテースティングを繰り返すことで、良い品質の商品を得ることはある程度できましたが、継続的な関係を構築することは不可能でした。
たまたま素晴らしいイルガチェフェに出会ったとしてもその時限り、翌年はまたテースティングを繰り返すしかありません。スペシャルティコーヒーの観点で生産サイドと何か取り組むといってもできることはほとんどないそんな時代でした。
ステーション(精製施設)指定のイルガチェフェが当たり前に流通している現在では考えられない、それが20年前という比較的最近のイルガチェフェです。
【2005-2008年】
そんな状況が一変したのが2006年です。
2005-2006年収穫のサンプルとして「ハフサ」「イディド」というステーション指定のイルガチェフェが堀口珈琲に届いたのです。今では当たり前のステーション指定イルガチェフェがサンプルだけでも入手できるのは、当時としては異例でした。常に良質のイルガチェフェを探し回っていた堀口の執念が身を結び届いたサンプルでしょう。
2つのステーションサンプルはどちらも素晴らしくすぐに買い付けを進めました。
届いた商品を焙煎するとサンプル以上に素晴らしさが実感でき、特に「イディド」は出色の品質でした。新しいイルガチェフェの到来を示すのに相応しいコーヒーとして記憶に残っています。
その翌年2006-2007年収穫では、イディドを届けてくれたサプライヤーが当時は高品質ウォッシュトの産地であったイルガチェフェにおいて高品質ナチュラルの生産を本格化。スペシャルティ・イルガチェフェ・ナチュラルを作り上げました。
堀口珈琲は高品質イルガチェフェ・ナチュラルをいち早く見出し、2003-2004年収穫から使用していました。イルガチェフェの個性にナチュラル精製の風味が合わさった風味はインパクトがあり、新しい個性のコーヒーとして紹介していました。しかし、精製の精度が甘かったのか大元であるチェリーの品質に課題があったのか、不要な風味の要素も多少含まれていることは否めない品質でもありました。


そんな時にもたらされたイディドのイルガチェフェ・ナチュラルは、クリーンカップがしっかりと担保された中にイルガチェフェの華やかさとナチュラル精製の風味が調和した素晴らしい品質のコーヒーでした。そのインパクトは凄まじく、商品名である「ミスティ・バレー」は今でも店頭で話題にされる方がいらっしゃるほど。イルガチェフェファンを一気に増加させた、多くの人の記憶に刻まれている歴史に名を残すコーヒーです。
今では世界中で当たり前に親しまれている高品質イルガチェフェ・ナチュラルですが、その先駆けとなる「ミスティ・バレー」をいち早く適切に評価し、大々的に紹介しできたことはイルガチェフェマニアを自認する堀口珈琲の誇りです。
【2008-2011年】
日本の制度的な問題に起因して、2008年5月エチオピアコーヒーの輸入は事実上の停止状態に陥りました。新聞などでも取り上げられたためご存じの方も多いでしょう。日本市場からエチオピアコーヒーは急速に消えていきました。
堀口珈琲もこの問題を目の前にして情報収集に奔走し、状況を確認しながら、どうしたらルールを逸脱せず、かつ安心安全なイルガチェフェを買付・提供できるか模索していました。
その結果なのかたまたまなのか、幸い堀口珈琲は比較的早期に買付再開にこぎつけられ、問題前に買い付けた在庫をしっかりと保有していたこともあって、一般のお客様向けにはあまり混乱なくイルガチェフェの販売を続けることができました。


一方で、別の問題が発生します。
2008年11月に施行されたエチオピア国内における新たなコーヒー取引ルールによって、せっかく実現した“ステーション指定のイルガチェフェ”というトレーサブルな商品が、流通しなくなってしまったのです。
トレーサビリティのはっきりしたイルガチェフェとスペシャルティ・イルガチェフェ・ナチュラルという新しい個性が誕生し、これからイルガチェフェは盛り上がりを見せていくはず…というタイミングで、輸入停止や流通ルールの変更という堀口珈琲ではどうにもならない根本的な問題が発生してしまい、「新しい品質のイルガチェフェ」はたった2シーズンで姿を消すことになったのです。


【2012年〜】
ルール変更によりイディドやハフサといったステーション指定のイルガチェフェは姿を消し、状況は2005年以前に逆戻りしてしまいました。サンプルの入手が困難になり商品の選択肢が限られた点を加味すると2005年以前より悪い状況でした。
この状況が3シーズン続いた後の2011-2012年収穫、ようやくトレーサブルな商品が復活します。一部の輸出業者が、エチオピア国内の取引ルールを破ることなくトレーサビリティを担保した商品を流通させる方法を構築したのです。
堀口珈琲も「ウォテ」「コンガ」「デボ」「アリーチャ」といったステーション指定の高品質イルガチェフェをようやく再開し一息つくことができました。
ゴロベデッサを手がけるメクリアさんのコーヒーを初めて扱ったのもこの頃です。ただ、当時のメクリアさんは流通業とステーションのオーナーではあったものの、輸出のライセンスは持っておらず、直接のコミュニケーションはありませんでした。彼のコーヒーを仲介してくれていた輸出業者とイルガチェフェ視察を行った際に、堀口珈琲が使用しているコーヒーの1つとしてメクリアさんが経営するステーションを案内してもらい、オーナーであるメクリアさんを紹介してもらう、という関係でした。
ちなみに、その視察では“ゲデブ”というイルガチェフェの最奥部の地域まで足を伸ばしています。日本のロースターで初めてゲデブ地区に足を踏み入れたのは堀口珈琲でしょう。まだ誰も“ゲデブ”という地名を知らない時期です。
【2018年〜】
2014年にメクリアさんと首都アジスアベバのイタリアンレストランでミーティングを行なっています。その時に相談されたのが輸出業者立ち上げへの協力です。メクリアさんをサポートしていたマルチナショナル企業のエチオピア支社長は「輸出業者を立ち上げる上で安定したバイヤーが最も重要」とメクリアさんに説いており、信頼できるバイヤーとして堀口珈琲との関係構築を後押しする機会を設定してくれたのです。堀口珈琲はメクリアさんの手がけるコーヒーを高く評価していたため、立ち上げるのであれば初年度から購入できることをその場で約束しました。
その後、2018年にメクリアさんは念願の輸出業者立ち上げを実現し、堀口珈琲は初輸出である2018-2019年収穫から現在に至るまで毎年メクリアさんが生産を手がけ、輸出する生豆の購入を続けています。
ちなみに、2018-2019年収穫はゲデブ地区で「ハロハディ」という集落指定の商品を実現した年でもあります。


【2022年〜】
今回特集した「ゴロベデッサ」は2022年に届きました。
輸出業者立ち上げの相談を受けた時に「この地域で理想のコーヒーをつくるとしたらどこですか?」という質問の答えとして届けてくれました。イルガチェフェではなく、奥イルガチェフェ=グジ地域のハンベラ地区に新しくステーションを設立してまでして答えてくれました。
ウォッシュト精製設備の整備は費用面でも大変であることから、まずはナチュラル精製専門の設備を整備し、ナチュラルのみの生産でしたが、その品質の素晴らしさから「どうしてもウォッシュトを飲んでみたい」という衝動に駆られ、「近隣のステーションでウォッシュト精製できない?」とリクエストしたところ、翌年2023年に「ゴロベデッサ ウォッシュト」が実現してしまいました。
その圧倒的な華やかさは「偶然できちゃったのかな?」と思ってしまうほどで、安定供給には懐疑的にならざるをえず、大々的に紹介するのは敢えて控えました。
そして2024年のゴロベデッサがやってきました。地政学的な問題もあって生産・流通の困難さが増す中でも2年連続でアメイジング。偶然ではないことが確認できたため、今回は特集での紹介に踏み切りました。
終着点は奥イルガチェフェ=“グジ”でしたが、堀口珈琲のイルガチェフェをめぐる35年は山あり谷あり、紆余曲折を繰り返す年月でした。
素晴らしすぎる「ゴロベデッサ ウォッシュト」がいつまでも口にできることをぜひ一緒に願ってください。
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メクリア・メルガ氏とゴロ・ベデッサ
1.イルガチェフェ・グジを知り尽くす人物、メクリア・メルガ氏
3章の歴史で全て触れることはできませんでしたが、堀口珈琲のイルガチェフェは新しいエリアやステーション・輸出業者の探索と関係構築と、産地の奥の奥まで足を踏み入れ細かくリクエストすることで生産・選抜されてきました。届いた生豆に対してテイスティングやグレーディング※を行い、産地側にフィードバックすることで翌年のブラッシュアップにも繋げようと取り組んできました。
ここまで徹底しても、エチオピアはひとつの商品を継続して販売するのがとても難しい産地です。流通ルールの変更という避けられない要因で姿を消してしまった「ミスティバレー」は致し方ないものの、そういった理由がなくとも素晴らしい品質の商品が数年で姿を消してしまう、品質が不安定になる、が頻発するのがエチオピアです。
グァテマラ「サンタカタリーナ農園」やブラジル「マカウバ・デ・シーマ農園」のように、他の生産国には20年以上に渡って安定的に高い品質と量を堀口珈琲に供給し続けてくれる生産者も多くいます。どうしてエチオピアの商品は品質と量の双方で安定せず、長続きしにくいのでしょうか。


理由の一つとして考えられるのは、エチオピアのコーヒー生産と流通の形態です。
上述した2つのコーヒーはいずれも農地でのコーヒーチェリー栽培から生豆を取り出す加工まで一気通貫に手がける形態です。経営する農園主や管理マネジャーと品質について協議しマインドを共にすることができれば、継続的に安定した品質を供給してもらえる可能性は高まります。
一方で、エチオピアは複数の小規模生産者たちが栽培・収穫したコーヒーチェリーを近隣のステーションに持ち込んで換金するのが一般的で、生豆への加工は生産者でなくステーションが担当します。生豆(殻付きのことが多い)まで加工し販売する中南米の生産者たちと比べると“品質を高めてスペシャルティコーヒー市場に高値で販売しよう”といった品質マインドは生まれにくい形態です。ましてやイルガチェフェは世界的な有名産地。需要は常に高い状態にあります。多少精度の低い仕上がりでもコーヒーチェリーは高値で売れていってしまいます。
そのため、たとえ素晴らしい商品に巡り会えたとしても、継続的に調達する、生産者や加工業者と関係を構築し品質や量を維持・向上させる、といったことは根本的に難しいのです。
エチオピアにおいて最高品質の生豆を調達し続けるためには、常に先手先手で広くエリアやステーションの状況にアンテナを張り、できる限り多くのサンプルを集め、その中からその年その年で良いものを選び出す必要があります。
もしくは、私たちが求める品質を理解することができ、信頼関係をベースに長期的視点で品質を作りと継続的取引を行うという考え方に共感してくれ、それを現地の商習慣の中で実現しようと取り組んでくれる”例外的な”存在が必要です。
その“例外”の一人が、「ゴロ・ベデッサ」を手がけるメクリア・メルガさんです。


こちらの素敵な笑顔の男性がメクリアさん。
当社生豆バイヤーが現地で高熱を出してダウンし水すら受け付けない状況が続いた時、メクリアさんは心配そうに様子を見に来てくれ「今夜は焼肉にする?元気でるよ?」と声を掛けてくれました。 水も飲めない状況だったので焼肉は丁重にお断りしたそうですが、優しくチャーミングな人柄が伝わってくる、オンラインストア担当お気に入りのエピソードです。
メクリアさんはイルガチェフェ・タウンの出身で、若い頃からコーヒーの仕事に携わってきました。
といっても農地を持ってコーヒー生産をしていたわけではなく、小規模生産者からチェリーを集め近隣のステーションに納入するという流通の仕事を立ち上げ、コーヒーに関わるキャリアをスタートさせます。仕事熱心で生産者との関係を大切にする姿勢もあってか、年を追うごとにその活動範囲は拡大し、イルガチェフェ全域、そして当時消費国では全く知られていなかったグジ地域の流通も手がけ、地域で最大級の流通業者に発展していきました。
メクリアさんの人柄もあってか、地域を駆け回る中で生産者や同業者からは尊敬と信頼が集まるようになり、メクリアさんにはイルガチェフェ・グジ全域の情報がもたらされるようにもなっています。
どこで、どのような品質のコーヒーが生産され、誰が流通させているのか知り尽くしている人物、それがメクリアさんです。
2.メクリアさんとの商品づくりと堀口珈琲
メクリアさんは流通業で蓄えた資金でイルガチェフェの“ウォテ”にステーションを設立し、流通だけでなく生産・加工も手がけるようになります。
もちろん商売を広げる意図もあったと思いますが、「品質の追求」と「地域の発展」がモチベーションでした。
流通の仕事で成功していく中で、メクリアさんは自身でステーションを持てばより高い品質のコーヒーを生産できるはず、それは地域の発展にも繋がる、とも考えたのです。
情報整理が進みGoogle Earthなどで地形を容易に確認できるようになった今だからこそ私たちにもわかることですが、ウォテはイディドと並んで最高品質のイルガチェフェを産出することが期待できるエリアです(ゲデブ地区は別として)。その立地環境をそういったツールが発達する以前に見極めてすでにステーションを設立していたメクリアさんはさすがです。
立地だけでなく持ち込まれるチェリーの受け入れ時の品質チェックやその後の各加工工程の精度向上にも常に積極的で、訪問する度に各工程の精度の向上や新たな取り組みを目の当たりにします。
私たちがステーションを訪問し意見交換するようになる以前から、こうした品質への取り組みは行われていたはずで、それがカップに現れていたからこそ、品質にうるさい日本のロースターとして認識されていた堀口珈琲に提供された多くのサンプルの中から、複数年連続でメクリアさんのコーヒーを選んだのでしょう。
「数あるサンプルの中でもメクリアの手掛けるものが突出していた。だから輸出業者の担当者にはメクリアのサンプルを送ってくれと何回も頼んだ」と生豆バイヤーは当時を振り返ります。
そして、2014年のアディスアベバでのミーティングを契機にメクリアさんとの関係は深まり、次のステップとして安定的に高品質なイルガチェフェを供給してもらうこと、さらなる品質に向かうことに取り組み始めます。
まず始めたのが「ウォテ」の再構築です。気候変動やチェリー価格の暴騰による生産者の品質マインドの低下によって品質がやや下降し始めたことに対応する必要がありました。協力者とともに現地確認を進め、標高2300m以上の生産者のチェリーのみの特別ロットを作ってみる、乾燥工程の質を向上させるために乾燥ベッドにシェードをつける、など次々と対策が進みました。
今年販売した「ウォテ」はK-Preparationという特別な設備と熟練のスタッフで選別が施されたロットで、素晴らしい品質でした。
メクリアさんと取り組んでいると感覚が麻痺しますが、エチオピアでこんな取り組みに付き合ってくれる人はそうそういないことを忘れてはいけません。
3.理想のコーヒー、ゴロ・ベデッサ
「この地域で理想のコーヒーをつくるとしたらどこですか?」
2014年にメクリアさんと初めて対面したとき、当社生豆バイヤーがそう問いかけました。
問いかけた本人はそのことをすっかり忘れていたと自白していますが、メクリアさんはこの何気ない質問に向き合い続けてくれ、約7年後の2021-2022収穫で一つの答えを示してくれました。
それが「ゴロ・べデッサ」です。
彼が自分の理想の環境として選んだのはグジ地域のハンベラ地区。その中でも標高2,400mという超高標高の立地です。高標高農地産のチェリーは品質が優れる可能性が高いのはわかりますが、だからと言ってステーションを超高標高に置く必要はありません。標高が高すぎると生産者の数は減り、生産性も落ちるため量を集めることが難しくもなります。
しかし、ゴロベデッサはメクリアさんが理想のコーヒーを追求しようと設立したステーションです。「標高の高い場所にステーションを置けば、生産者は運ぶのが大変だから上からしかチェリーはやってこない、最高品質のチェリーだけで作れる」とメクリアさんは言うのです。
本人からのこの話を聞いた時、当社のバイヤーは「おい、やりすぎだろ」と内心思ったそうです。と同時に「絶対買わないといけない」とも思ったそうで、「品質良くなかったらどうしよう」とビビっていたようです。
また、標高の高い立地にステーションを新設するのは容易なことではありません。インフラが十分に整っておらずトラックや重機を入れることもできないため、ステーションは集落の人々の手を借りて作り上げました。周辺住人との関係構築もより重要になりますが、そこはさすがのメクリアさん。彼の知名度だけでなく、スタッフの中でも特に優秀な人材を配置し、関係構築から受け入れるチェリーの熟度管理、加工工程に至るまで万全の体制を敷いていました。
最高の立地を探し続け、資金を準備し、ステーションを設立し、近隣の生産者から良質なチェリーを受け入れられる状況を構築し、まずは最高品質のナチュラル、そして最高峰のウォッシュトを私たちの元に届けてくれました。
その味わいは、2章でご紹介した通りです。「とにかく、おいしい」。そして、じっくり味わえばどこまでも深めていける。
「この地域で理想のコーヒーをつくるとしたらどこですか?」
この質問に言葉でなく、コーヒーで、しかもここまで完璧に答えてくれたメクリアさんには堀口珈琲も最高品質の焙煎で答えなければなりません。


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さいごに
“風土の個性を楽しむ”スペシャルティコーヒーにおいて、品質の最終的な要になるのは人でありマインドです。
相場が乱高下する中でも、作柄がいい時も悪い時も、生産者と共に品質を追求した取り組みを継続していくための信頼関係を構築し、長期的な目線でビジネスを展開していくことが重要です。
実際、近年のコーヒーチェリー価格高騰に伴ってエチオピアは全体的に品質低下傾向にありますが、そのような中でもメクリアさんからはエチオピアの“最高峰”とさえ思える素晴らしいコーヒーが私たちの元に届けられました。
数年前からエチオピアでもコーヒーのコンテストが始まり、毎年盛り上がりを見せています。しかし、コンテストで上位入賞した高額なロットを散発的に味わうことだけが、スペシャルティコーヒーの楽しさではありません。私たちはあくまでも品質を軸に長期的な目線に立ち、きちんとした背景のもとでつくられるスペシャルティのエチオピアを提供し続けたいと考えています。
その象徴とも言える「ゴロ・ベデッサ」のコーヒー、存分にお楽しみください。