ブレンドノート
堀口珈琲会長
堀口俊英
「堀口珈琲」の創業者。鮮度の高い生豆を重視し、産地の個性が明確な深いローストを追求。「おいしさの追究」が高じ、2002年に堀口珈琲研究所を開設。生豆の品質に関する科学的評価に向けて今も研究を続けています。近著『新しい珈琲の基礎知識』(2023年、新星出版社)ほか著書多数。
今回のパパブレンドのテーマは「なめらかで甘いアフター、しっかりした酸味のコーヒー」です。
シティとフレンチをブレンドしてますので、やや深めの焙煎度になるでしょう。個性豊かな素材を使いましたが、全体としてはバランスが良くまとまっていて、もう一杯欲しくなるようなブレンドをイメージしています。
ブレンドができるまで
第一段階 シングルオリジン5種類の選定と官能評価
まずは、ブレンドの素材候補となる豆を選んでいきます。今回は使用したいコーヒーが1種類ありました。タンザニア「ハイツ農園」のピーベリー(※)です。これまで私が様々な産地のピーベリーをテイスティングしていくなかで、良い風味と評価できるピーベリーはほとんどありませんでした。
しかし、今回サンプルのなかにあったハイツ農園のピーベリーは、とてもクリーンでなめらかな質感があり評価が高く、このコーヒーを使ってブレンドを創りたいと考えました。その他の候補として、約50種類の生豆のリストから選んだのが以下の4種類のコーヒーです。
・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリーでない)」
・ケニア「カイナムイファクトリー」
・ブラジル「セルカ・デ・ペドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」
・インドネシア 「マンデリン "オナンガンジャン"」
この5種類のコーヒーをミディアムとシティに焙煎し(Panasonic社のサンプル焙煎機で私の手で焙煎)風味の可能性を探ることからスタートします。
※ピーベリーとは・・・通常、コーヒーチェリーの中には種子としてフラットビーン(平豆)が2つ入っている場合が多いですが、稀に生長段階で種子が1つしか育たず、その種子が俵状に育つ場合があります。これをピーベリー(丸豆)と呼びます。
官能評価の結果、可能性のある焙煎度が見えてきました。以下のパターンで上原店にサンプル焙煎を依頼します。
・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリー)」:シティロースト
・タンザニア「ハイツ農園」:シティロースト・フレンチロースト
・ケニア「カイナムイファクトリー」:シティロースト・フレンチロースト
・ブラジル「セルカ・デ・ペドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」:フレンチロースト
・インドネシア 「マンデリン "オナンガンジャン"」:フレンチロースト
計7種類
第二段階 シティ・フレンチでの官能評価と候補の絞り込み
上原店から届いた7種類のコーヒーのサンプルをテイスティングして評価していきます。このテイスティングでブレンドをどの組み合わせで試すか決めるため、候補となる素材の絞り込みを行います。
やはりハイツ農園のピーベリーをシティにすると柑橘果実の酸味となめらかさの特長が生まれますので、これをベースに組み立てていきます。また、ケニアも高評価でした。次はいよいよブレンドを試す段階です。
第三段階 ブレンドの作成
第二段階で絞り込んだ素材から、いくつか可能性のあるブレンドパターンを考えました。基本的にピーベリーは使用しますので、このコーヒーは外さずに進めます。
テーマにしている「なめらかさ」や「甘さ」を特徴としつつ、豊かな酸も楽しめるブレンドに仕上げます。そしてなにより、全体のバランスが整っていることが大切です。
12パターンのブレンドを試作して官能評価し、使用する素材と配合比率を最終決定しました。
ブラジルやマンデリンの味が主張しすぎないことが大事です。そのため、この2種の比率も減らしてみたのですが、それでいいというわけではないのがブレンド作りのおもしろいところですね。
最終的に5種類の素材を均等な割合で使用することになりました。
不思議です。このバランス以外ですと微妙にしっくりしません。9種のブレンドやこれまでの堀口珈琲のブレンドにはない風味を求めました。
抽出レシピと楽しみ方
今回は個性豊かな素材が揃いましたが、全体としてはバランス良くまとまっています。
シティとフレンチのブレンドなので焙煎度は明記していませんが、フルシティ、もしくはそれよりもやや軽いくらいの仕上げを心がけて下さい。
パパブレンドは下記を推奨の抽出方法(ペーパードリップ)としますが、好みで抽出量や抽出時間を加減してください。
一人分:豆の量20g 抽出時間2分 抽出量150ml
二人分:豆の量30g 抽出時間3分 抽出量300ml
※挽き目は中挽きからやや粗挽き
酸がきつくなりすぎないよう、あまり時間をかけすぎないことがポイントです。やわらかい口当たりとなめらかな舌触り、酸味の中に甘さがあり、旨味も際立ちます。