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グァテマラの新しい個性
今回の特集は久しぶりに「グァテマラ」です。
グァテマラと聞いて反射的に「サンタカタリーナ農園きた!」と思われた方は堀口珈琲通ですね。
“アンティグア”というグァテマラ随一の名産地における名門農園で、堀口珈琲とは20年の付き合いになる大切なパートナー生産者です。初めて聞いた方はぜひ頭の片隅にしまっておいてください。そして見かけたらぜひ味わってみてください。浅煎りでも深煎りでも、しっかりとした味わいを持ちつつも均整がとれており、スペシャルティコーヒーのお手本と言える風味を体験できます。
と、このままサンタカタリーナ農園をじっくり紹介したいところですが、今回フォーカスするのは、アンティグアと双璧をなすグァテマラの名産地“ウエウエテナンゴ”からやってきたニューフェイス「サンタバルバラ」です。
グァテマラに期待するバランスや飲み心地の良さをきちんと担保しながら、アンティグアとは明確に異なる個性も備える素晴らしい仕上がりで、堀口珈琲のロースター陣もそのポテンシャルの高さに大きな期待を寄せています。
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サンタバルバラの風味と
ペーパードリップでの楽しみ方
グァテマラ産の高品質生豆の多くがそうであるように、サンタバルバラは浅煎りから深煎りまでどの焙煎度でもバランスを崩すことなく優れた風味をもたらします。今回はシティローストとフレンチローストの2つの焙煎度でサンタバルバラを仕上げましたので、それぞれの焙煎度で取り出したサンタバルバラの風味の個性と、それらをしっかりと楽しむための抽出のコツを紹介していきます。
シティロースト
【風味】
柔らかい口あたりに、柑橘果実の風味を主体としたバランスに優れた味わい。そこに、ほんのりと南国果実を思わせる華やかなニュアンスが加わり、余韻には桃のような柔らかい甘みが持続します。
【シティローストの推奨レシピ】
【抽出時のポイント】
瑞々しい果実感を引き出すために、時間はかけ過ぎず、特に抽出の後半は湯量を増やしてさっと抽出をするイメージで。
フレンチロースト
【風味】
深煎りならではの苦みとボディのなかに感じられるクリーミーな触感が特長です。シティローストで感じられた瑞々しい果実感は、フレンチローストに仕上げることで、質感を伴ってより濃密に感じられるでしょう。
【フレンチローストの推奨のレシピ】
【抽出時のポイント】
前半は丁寧にじっくりと濃い液体を落とすことで、クリーミーな質感が引き出されます。後半にかけて徐々に湯量を増やしていくように抽出してみてください。
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スペシャルティコーヒーの基本の風味を体現する
「アンティグア」
サンタバルバラのコーヒーを詳しくご紹介していくにあたり、本章ではまず同国の別の生産エリアである「アンティグア」の特徴から入っていきたいと思います。「なぜ別の生産エリア?」その理由は後述しますので、しばしお付き合いください。
スペシャルティコーヒーは原材料である生豆の生産環境の微細な違いが反映された風味=“個性”を楽しむコーヒーです。そのため生豆生産には、生産環境を鏡のように映す品種や、個性を邪魔してしまう雑味をもたらさない作りの良さが求められます。 この要件を満たしている産地の代表的存在がグァテマラ「アンティグア」です。
【アンティグアの特徴】
・標高や降雨パターンなど高品質アラビカコーヒーの栽培にとって恵まれた環境
・ティピカやブルボンといった伝統品種の栽培が継続されている
・整った設備と技術に裏打ちされた精度の高い精製を施すことのできる複数の名門農園
生産環境、品種、作りのよさ。この三拍子がそろった産地は多くなく、古くから名産地として名を馳せてきたことがうなづけます。
近年アンティグアでも気候変動や品種の変遷は起こっていますが、それでもまだ、一部の名門農園では“お手本”と言うべき素晴らしいコーヒーが作り続けられています。
では、スペシャルティコーヒー生産の基本を押さえたアンティグアからもたらされる風味とはどういったものでしょう。言葉にするのはなかなか難しいですがまとめてみます。
【スペシャルティコーヒーの基本の風味】
・ほのかなフローラルさ
・きれいで豊かながらシャープすぎない酸味と香りがもたらす柑橘のニュアンス
・焙煎の進行とともに表れるしっかりとした質感
・余韻まで続く十分な甘み
・焙煎度を問わず、風味の各要素が高次元で安定するバランスの良さ
サンタカタリーナに代表される優れたアンティグア産からはこのような風味を感じとることができます。この基本の風味を中心に置いて、中南米産の比較的ニュートラルなコーヒー、ケニアやエチオピア・イルガチェフェといった強い個性を持つアロマティックなコーヒーを味わっていくとスペシャルティコーヒーのおいしさ・楽しさが広がることに気づくでしょう。
今回紹介する「サンタバルバラ」の個性も、基本の風味を意識しながら飲むことで、よりはっきりと認識でき「これはすごいコーヒーかもしれない」と思っていただけるはずです(普通に飲んでもおいしいですけど……)。
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「サンタバルバラ」のユニークさは
どこからやってくるのか
サンタバルバラの風味をおさらいすると、
柔らかい口あたりに、柑橘果実の風味を主体としたバランスに優れた味わい。そこに、ほんのりと南国果実を思わせる華やかなニュアンスが加わり、余韻には桃のような柔らかい甘みが持続します。
でしたね。
これをアンティグア産がもたらす基本の風味と比較してみると、バランスに優れた風味という共通項はありつつも、複雑な「果実感」に固有の特徴があることがわかります。質感の瑞々しさや、様々な果実のニュアンス、これらが「サンタバルバラ」にユニークさをもたらしています。
では、このユニークさはどこからやってくるのでしょうか。地図をヒントに読み解いていきましょう。
「サンタバルバラ」はウエウエテナンゴ地域に位置します。まずは上の地図でアンティグアとの位置関係を確認しておきましょう。お隣さんではなく結構離れた産地のようですね。地図を眺めているうちに「両者とも山地形の中にありそうだな」と思われた方、鋭いです。「ウエウエテナンゴはアンティグアより内陸にあってアンティグアより山地が広がってそうだな」なんてコメントしていたら鋭すぎます。同じグァテマラでも、アンティグアとウエウエテナンゴでは生産環境が結構異なり、その差異が風味に違いをもたらす要因となっています。
アンティグアとウエウエテナンゴ
アンティグアとウエウエテナンゴの違いについてもう少し細かく見ていきましょう。
アンティグアは三つの火山を中心とする山に囲まれた盆地地形で、平地でも1,500mを超える高標高産地です。太平洋側はアグア火山とフエゴ火山、アカテナンゴ火山によって閉じられ、大気はある程度雨を落としてから流入するため、乾燥しつつ適度に降雨もあるといった気候です。土壌も過去の噴火による堆積物が風化した火山性土壌で、コーヒーの生育に必要な成分が豊富に含まれるとともに、透水性と保水性の双方をあわせ持つ構造と、コーヒー栽培に適した環境がそろっています。こうした環境の中で、しっかりした設備と技術を持つ歴史ある農園が栽培・精製を手がけ、高い品質のコーヒーを安定的に産出しています。
ウエウエテナンゴは内陸部に位置します。アンティグア以上に太平洋側が山によって閉じられ、より雨を落とした大気が流入するため、乾燥しやすい環境です。一方で、カリブ海側からも大気が流入する位置にあり、ある程度湿った大気が供給され、コーヒー生産に必要な降雨がもたらされます。山がちで急峻な地形が連なっている点もアンティグアとの大きな違いで、一口にウエウエテナンゴといっても、地区によって環境は大きく変わり、標高差も大きいです。生産規模を見ても「エル・インヘルト農園」のような世界的に知名度の高い大規模農園も存在する一方で、複雑な地形であることも手伝ってか小規模生産者が多いのもこの地域の特徴です。標高の差が激しく、環境が多様で、生産形態も多様であることから、生産されるコーヒーの品質も玉石混交の産地でもあります。
サンタバルバラの特異性
では、さらにサンタバルバラに迫っていきましょう。
サンタバルバラの地理的特徴はなんといっても標高です。低い農地でも1,700mくらい、主に生産されるのは2,000付近、高い農地は2,400mを超える、超高標高産地です。ちなみにアンティグアの最高栽培地点は2,100mくらいです。他の環境要因が大きく異なるので同列で語ることはできませんが、「とにかく高い」と言うことはご理解いただけると思います。
次に注目したいのはウエウエテナンゴ地域の中での位置です。
サンペドロネクタやデモクラシア、リベルタといったウエウエテナンゴの有名産地からは離れた位置にあります(特にリベルタはエル・インヘルト農園やラ・ボルサ農園など名門農園がひしめく地域ですね)。
この位置は他の有名産地より南に位置し、カリブ海側からの大気の流入が折り重なる山でブロックされてしまいます。一方、太平洋側も開けておらず、非常に厳しい環境であることが予想されます。コロンビアのナリーニョのように谷の位置が環境に大きな影響を及ぼしコーヒー栽培を可能にしていると思われますが、現地に入ってみないとなんとも言えません。
しかし、位置的なユニークさ、地形的なユニークさがサンタバルバラの風味のユニークさの一因となっていることは間違いないでしょう。
サンタバルバラの弱点
「サンタバルバラ」はアンティグアの名門農園とは真逆で、非常に小さな規模の生産者によって生産されたコーヒーを集めたものです。この地域では、夫は近隣のコーヒー農園などに出稼ぎに出るのが一般的で、残った家族が家の周りでコーヒーを小規模に生産しています。設備も知識、技術も乏しいのが実情で、必ずしも精度の高い栽培・加工はできていせん。 現地の輸出業者を中心に品質向上を目指すプロジェクトは進んでいるもものの、まだまだ精度に課題があります。ポテンシャルは十分ですが、作り込みは不十分という産地なのです。
とはいえ、今回紹介する商品に不十分なコーヒーは含まれていません。約3,200軒の小規模生産者が生産したのコーヒーの中から、品質の優れたものだけを輸出業者と堀口珈琲の品質管理の2段階で厳選したからです。言い方を変えると、たまたま作り込みがうまくいったものを選抜することで高い品質を確保しました。
したがって、今のところサンタバルバラは限られた量しか買い付けすることができません。今後、知識・技術・設備が少しずつ改善され、それぞれの生産者の品質精度が少しずつ高まっていけば、比例してより多くのサンタバルバラ・より高い品質のサンタバルバラを紹介できるようになるでしょう。そのために輸出業者・輸入業社・堀口珈琲の間で協議し、それぞれの立場でできることに取り組んでいきます。
※今回の特集では紹介しませんでしたが、輸出業者・輸入業社・堀口珈琲を含むロースターにより、優れた品質を作り上げた生産者には品質に応じたプレミアムを支払うというプログラムが実施されています。品質を高めプレミアムを得るための農事指導も輸出業者を中心に行われています。