TOP > 品種を楽しむ ティピカ編
いざ、品種の世界へ
品種に踏み込むコーヒーライフ。このシリーズもついに第3弾を迎えました。
「パカマラ品種」「SL品種」に続いて登場するのは、人気の「ティピカ品種」です。
コーヒーの品種を全般的に語るには避けては通れない品種ですので、名前だけなら!という方は多いのではないでしょうか。
当店でも力を入れてきた品種です。一方で、「品種」と聞いて少しハードルが上がったな、とお思いの方がいらっしゃるかもしれません。
安心してください。ポイントを絞って少し触れてみるだけで、目の前のコーヒーがものすごく興味深いものになるはずです。お店で知っている品種を見つけたらそれだけで嬉しい気分になるかも。
あまり難しく考えず、コーヒーを選ぶ・楽しむ視点のひとつとして、一緒に品種の世界を覗いていきましょう!
- 1
-
注目されるコーヒーの品種
‐コーヒー選びのヒントに‐
ここ数年で随分とコーヒーの品種に関わる表記や記事を見ることが増えてきました。 当店ではもちろん、スペシャルティコーヒーであれば必ずと言っていいほど品種の表記がありますし、品種の飲み比べや特定品種に関する記事もよく見かけます。ゲイシャ品種の登場もその流れに拍車をかけたと思います。
では、なぜ注目されるのでしょうか。この流れには業界の発展や食の安全など様々な側面がありますが、大きくは品種の違いがコーヒーの味わいに少なからず影響を与えているからです。つまり、品種が皆様のコーヒー選びや楽しみ方にとって大切なポイントとなり得るからなのです。
と、通常の記事であればここで終わるのですが、私達が特に大切にしお伝えしたいことはもう一歩先のお話です。
- 2
-
品種の違いだけで味は決まらない
‐品種を楽しむ醍醐味とは‐
この品種の特徴はこうで、こういう味わいが楽しめます、というのは簡単です。簡単だからこそ誤解を与えかねません。「この品種=こんな味わい」と思い込んでしまうと、ほぼ間違いなくそう感じないコーヒーが出てくるでしょう。むしろ、そんなコーヒーの方が多いかもしれません。土壌や気候、精製、焙煎、時間と共に変化する豆の状態など、コーヒーの味わいに影響を与えるポイントはたくさんあります。飲むシーンや体調、時には感情さえも。それらが複合的に関係し合うなかで「品種の個性はどのような表情をみせてくれるのだろう」と探ること、これがコーヒーの“品種を楽しむ一番の醍醐味”だと思っています。
.jpg)
.jpg)
私達の第一目標は皆様に「おいしい!」と感じていただくことです。そこに「楽しい!」が加われば最高です。「品種」はそのための切り口のひとつ。暗記作業とならず、ぜひこの“探る”を大切に飲んでいただければ幸いです。
- 3
-
ティピカ品種について
コーヒーを語る上で大切な品種
さて、ここからティピカ品種について詳しくみて行きましょう。
まずはその名前からこの品種の特徴が見えてきます。
「ティピカ(typica)」
似たような言葉に英語の「typical(ティピカル)」があります。日本語では「典型的な」などと訳される言葉で、ティピカもまさにそういった意味合いを込めて名付けられました。18世紀、植物学者であり分類学の父と呼ばれるリンネが、とある押葉標本に「Coffea arabica」という学名を付けました。これが「(コフィア属)アラビカ種」です。時は下り、この種にもいくつか変種が存在することがわかります。そこで1913年、植物学者のクレイマーがこれまで基準種とされていたそのリンネの標本の植物に「典型的」を意味する「typica」という変種名を新たに名付けました。これが現在の「ティピカ」の名前の元になっている、と言われています。
.jpg)
.jpg)
細かな部分を深堀りしていくと戻って来られませんのでこの辺に。つまり、ティピカ品種はコーヒーの歴史を語る上では避けては通れない非常に大切な品種だということです。
ティピカ品種を知る上でもうひとつ大切なことはそのスケールの広さです。現在のコーヒーの祖先はエチオピアの野生種のなかから生まれ、その一部がイエメンに渡り栽培品種として長く育てられていました。ティピカはそのなかでもジャワ島に渡った一部から、さらにオランダに持ち込まれたものの子孫だと考えられています。ここから、フランスやカリブ海諸国を経由してコスタリカなどの中米各国へ、別ルートではブラジルを経由して南米全体へ広まっていったと言います。そして、世界中で栽培されるようになるのです。
これほど長く、広く、密接に人類と関わってきた品種はそうありません。
主役から脇役へ?
世界各地で主力品種となったティピカですが、その未来はあまり明るいものではありませんでした。いくつかの理由によって世界の農地から徐々にその姿を消していきます。
まずは「収穫量」の問題です。枝のなかで実の付く部分の間隔が長く、実の付き自体も少ない傾向にあります。単位面積あたりの収穫量が他の品種に比べて少ないため、例えば中米やコロンビアではカトゥーラ、ブラジルではブルボンのように、より収穫量の多い品種にとって代わられていきました。また、樹高が高く密植には不向き、収穫も行いづらいという点もあったそうです。
そしてもうひとつは「さび病」です。1888年頃からジャワ(インドネシア)やセイロンで大流行したコーヒーの樹がかかる病気「さび病」は深刻な被害をもたらしました。ティピカ系品種はもちろん、一帯の在来品種はほぼ壊滅状態。スマトラ島の一部でティピカ系品種がわずかに生き残る(ガロンガンやオナンガンジャンはこの一部)という由々しき事態となりました。
中南米では1970年頃からこのさび病が流行し始めます。しかし、東南アジアでの流行を教訓にして、各地で耐病性に優れた品種改良(選抜や交配)が進んでいました。カネフォーラ種の耐さび病性を受け継いだハイブリッド系の品種が一般的になるのもこの時期です。さび病に対する耐性が比較的弱いとされるティピカ品種はこの煽りを受け、各地で植え替えられていきます。
堀口珈琲のブレンドとティピカ
世界的に生産エリア・生産量が減ってきているティピカ品種ですが、その価値を見直す動きもあります。流通量が減少したことで希少・貴重な品種という認識が広まりつつあることもありますが、堀口珈琲では特にその「風味」に注目し、この品種を大切にしてきました。
創業者である堀口俊英はティピカを「コーヒーの基本の香味」と位置づけ、この品種の追求、保護に力を入れてきました。まだティピカが多く残っていた東ティモールでの活動もこの一環です。(詳細はまたいずれ!)
近年注目しているホンジュラスでは良質なティピカを見つけることができ始め、風味の多様性をお届けする上ではとても貴重な存在です。そして何より当店が最も大切な表現のひとつとして捉えている「ブレンド」においてもティピカは重要な役割を担っています。
.jpg)
.jpg)
前述したようにコーヒーの味わいとは様々な要素が複雑に絡み合って表れるため、明確にティピカの風味はこれだ!とお伝えすることは叶いません。しかし、この品種自体の備える傾向はいくつかあります。そしてそれはブレンドの味わいを表現する際のヒントにもなります。
当店の主任ブレンダー秦はこう語ります。
シルキーな質感、清涼感を感じさせる爽やかな香り、華やかで上品な酸、甘い余韻などの特徴は、一般的に高品質なティピカ品種が備える傾向として捉えることができると思います。全体的に品の良さを感じさせる味わいが印象的で、ブレンド作りにおいても意識することはあります。
ただ、ブレンドの配合を考える際に、「よし、ティピカを使おう!」というように品種から考え始めることはありません。第一にそれぞれのコーヒーの個性(味わい)をしっかり捉えて、コンセプトを表現するのにふさわしい素材や組み合わせを吟味することが大切です。その上で、ベースやアクセントに品の良さを求めた時、“結果的に”ティピカ品種のコーヒーが抜擢されることはよくあります。
特にブレンドリニューアル後は、一部のコンセプトでそのような品の良いニュアンスをより大切にしっかり表現していきたいと考えているので、この品種の存在感も増していくかもしれませんね。

- 主任ブレンダー
- 秦はる香
- 4
-
ティピカ品種を体験しよう!
現在販売中のティピカ品種のコーヒーをご紹介します。同じ品種であってもそれぞれのコーヒーが備えるキャラクターはその数だけあります。冒頭でご紹介した”探る”楽しみを大切に、ぜひ味わっていただきたいと思います。
【NEW!】ペルー 「フェスパ農園 ティピカ」 フレンチロースト 200g
販売価格:¥1,836(税込)
味わい:カシスを思わせる華やかな果実感とシルキーな質感。冷めてくるとスパイスの様な甘さも楽しめます。
ホンジュラス 「エル・カンポ」 ハイロースト 200g
販売価格:¥1,836(税込)
味わい:クリーンでシルキーな飲み口に、柑橘果実やほのかに赤い果実の風味が楽しめます。
コロンビア 「ラ・クンブレ農園 ティピカ」 フレンチロースト 200g
販売価格:¥2,052(税込)
味わい:力強いボディと熟したオレンジのような酸と甘みが特徴の濃密な味わいのコーヒーです。