あえて“わかりにくさ”の方へ

いまは、わかりやすい味がよろこばれる。ブレンドを作るときはもちろん「できるだけたくさんの人に届くように」と作ります。そして、簡単に伝わるものを作らないと意味がない、とどこかで思ってしまいます。

しかし、どんどんわかりやすい味が求められるからこそポジティブな味やネガティブな味が一緒くたになって「個性や特徴」として説明されてしまう。ある意味“伝わりすぎる”ことが世の中のコーヒーの味を決めている側面がある、ともいえそうです。

ブレンドとなると、エチオピアやケニアなんかのアフリカのコーヒーやマンデリン、華やかさや果実感がたっぷり感じられるものを使いたくなります。それは、フレーバーの艶やかさをもったコーヒーを使った方が“わかりやすい”からです。でも、そうしてしまうと“クリーンカップ”への気づきよりも先に、フレーバーの派手さに心奪われてしまいます。

フレーバーの派手なブレンド。それはそれで楽しいのですが、今回のロースターズブレンドはそういったところから切り離して、味づくりをしてみよう。お客様にすぐに伝わることや、スタッフが説明しやすいことといった“わかりやすさ”から少し離れ、単純化の動きにさからうような細部に目を凝らしてこそ面白さに気づける味づくりをしてみよう。“クリーンカップ”という、本来は一番に見るべきものを切り捨てず、真っ当に伝えてみよう。そのようなことを考えはじめたところから、ロースターズブレンドの味づくりがはじまりました。

ホンジュラスだけで作る、ハイローストのロースターズ

今回はホンジュラスのコーヒーだけで、浅めの焙煎度であるハイローストのブレンドを作ろうと思いました。
“ホンジュラスだけ”を選んだこと。ロースターズブレンドは「堀口珈琲の渾身の深煎り」という認知が少しずつ広がっているにもかかわらず、“浅め”を選んだこと。それぞれに、理由があります。

ホンジュラスだけでブレンドをつくろうと思った理由は、生豆の品質が素晴らしかったからです。堀口珈琲が目を付けて今年8シーズン目を迎えるホンジュラス。
初めて取り扱ったのは2017年。セルグァパ地区の生産者ヘスス・ガレラスさんの「ラ・ファルダ」と「ラ・フォルトゥナ」という農地の2 種類でした。それまでは、ホンジュラスという国自体、質よりも“量”で勝負するコーヒー産地というイメージしかありませんでしたが、当時の狛江店でロースターの同僚たちと届いた2種類のコーヒーを飲み、今までのホンジュラスのイメージと一線を画す華やかさに驚きました。
それからこつこつと品質向上に取り組んだのでしょう。今ではすっかりスペシャルティコーヒーの優良産地として存在感を知らしめており、堀口珈琲の味づくりでも欠かせない存在です。
スペシャルティの産地ではなかったホンジュラスが安定的に高品質なコーヒーを生み出すようになったこと。これから先も何が起こるかわからないコーヒー産地で、確実に高まった品質を奇跡のひとつだと感じ、今しっかり伝えるべきだと思いました。

そして、なにより「エル・カンポ」の存在です。
セルグァパ地区のティピカ品種「エル・カンポ」。
今年のホンジュラスの中で最もクリーンカップに優れたコーヒーです。毎年品質レベルが高く継続して扱ってきましたが、歴代の「エル・カンポ」の中でも一番の出来。入港したての15種類のサンプルをカッピングした際、どれも素晴らしいと思いましたが、ロースターズブレンドにはまずこのコーヒーを取り入れたいと真っ先に思いました。
穏やかな柑橘果実の風味に、品種由来だと思われる上品できめ細やかな質感、奥行きのある甘み。この見事なつくりの良さを浅めの焙煎度で素直に取り出してみよう。そんな風に思わせてくれたのです。

ホンジュラスという産地の飛躍的に品質の高まったコーヒーを存分に生かそうと決め、“ロースターズブレンド＝深煎り”という既定路線にもさからいつつ、「エル・カンポ」という素晴らしいコーヒーを主軸に据えると、何を組み合わせていこうかと、徐々に考えが広がっていきました。

ひとつの産地から広がる、味わいのふくらみ

同じ生産国のコーヒーだけでブレンドを作成するとき、味わいの共通点は見つけやすいですが、それが却って「スケールの小さい味」を表現してしまうことにもつながります。だからこそ、細部の違いに目を向けてブレンドの味わいにふくらみをもたせることができるかがポイントです。
基本的なホンジュラスの風味は、フレーバーに派手さはないものの、若草のような懐かしい香り、スペシャルティコーヒーのベースとなる柑橘果実の風味、そして穏やかな甘みがあります。共通点を念頭に3種類の個性の異なるコーヒーを使いました。

セルグァパ地区のティピカ品種「エル・カンポ」
サンセバスティアン地区のパカス品種「パトリシア」
チャギテ地区のブルボン品種「インコモーダ」

穏やかな柑橘果実の風味に上品できめの細かい質感をもつ「エル・カンポ」を主軸に、クリーミーな口当たりと柑橘果実、ほのかに赤い果物の甘みをもつ「パトリシア」を組み合わせ、他の2種類よりも濃縮感があり、味の強い「インコモーダ」をアクセントに少しだけ合わせました。 軽快さに偏らない、ブレンドならではのボディの厚み。まとまりがありつつも風味の複雑さがあり、丁寧に味わうと口に含むごとに繊細な違いに気づくことができます。なんといっても全体の出来の良さを感じさせるクリーンカップが特徴のブレンドとなりました。

ロースターズブレンド 素材の紹介

抽出レシピといれ方

ロースターズブレンドをハンドドリップでおいしくいれる際のポイントは、「質感を引き出しつつ軽やかに」。入れ始めは粉の上にお湯を置くように優しく注ぎ、香りや質感を引き出します。後半は注ぐペースを上げて軽やかに仕上げることで、柔らかな酸が楽しめます。


＜ポイント＞
注ぎ始めは少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させ、20秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして40秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。 その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。

素材に抜擢されたホンジュラス3種を味わうセット