ブレンダーの紹介
堀口珈琲会長
堀口俊英
「堀口珈琲」の創業者。鮮度の高い生豆を重視し、産地の個性が明確な深いローストを追求。「おいしさの追究」が高じ、2002年に堀口珈琲研究所を開設。生豆の品質に関する科学的評価にむけて今も研究を続けています。近著『スペシャルティコーヒーのテイスティング』(2024年、旭屋出版)ほか著書多数。
PAPA'S BLEND 2025
幻のブレンド「モカジャバ」。
これを、堀口俊英のエッセンスを加えて、現代に蘇らせます。
今年のPAPA'S BLENDはこんなテーマで作りました。
実際の風味は飲んで感じていただければと思いますが、高品質なイエメン産コーヒーにしか表現できない独特のニュアンスに、良質なマンデリンの要素がうまく融合しています。イエメンは深めのイタリアンローストで仕上げていますので、しっかり苦く、しっかり甘い、”ガッツ”のある飲みごたえも感じられると思います。
■現代のモカジャバ?
世界最古の基本ブレンドと呼ばれる「モカジャバ」(※)ですが、当時のモカジャバは湿潤な偏西風の影響を受けた長距離輸送のため、生豆は決して良い状態とは言えなかったでしょう。
鮮度が劣化したオールドクロップの風味の伴う、枯れた草、枯れ葉、湿った段ボール、発酵果肉などのようなニュアンスの風味があったと推測します。
しかし、世界最古のブレンドですので、このブレンドの風味を再現しようとする(あるいはしていた)老舗の会社がアメリカにはいくつかあります。
「Peet's Coffee」、「The Coffee Bean & Tea Leaf」、「Brooklyn Roasting Company」、「Orinoco Coffee &tea」、「Paramount Coffee Company」、「Third Coast Coffee Roasting Company」、「Sweet Maria's Home Coffee Roasting」などが「モカジャバ・ブレンド」を販売しています。
しかし、この伝統的なブレンドに対してイエメン産とジャワ産のコーヒーを使用しているのは「Paramount Coffee Company」くらいでしょうか。モカと称して安価なエチオピア産のコーヒーを使用している会社がほとんどで、加えて、大部分はコマーシャルコーヒーと推測されますので、私としては現在に蘇らせても風味の観点では面白くはありません。
また、日本にはインドネシアのジャワ産のコーヒーはほとんど流通していませんが、アメリカには現在でもジャワ産のウォッシュト精製のコーヒーが輸入されています。こちらは使用できるのでしょうが、ジャワ産は生産量が少なく、お隣のスマトラ産を使用する事例も多くみられます。
※モカジャバ・・・・世界で最も古い基本ブレンドと呼ばれています。モカはイエメンのモカ港、ジャバはインドネシアのジャワ島を意味し、そこで栽培、あるいは流通した2種類のコーヒーをブレンドしたものが「モカジャバ」です。モカとしてエチオピア産、ジャワの代わりにスマトラ産のコーヒーを使用する例も見られます。
1950年代の特にアメリカでは一般的なブレンドでしたが、現在では取り扱うコーヒー店はほとんどありません。
■堀口俊英流のモカジャバを
モカジャバを現代に(おいしく)蘇らそうとするならば、最高品質のイエメン産とスマトラ式による精製のスペシャルティなマンデリンを使用したいですね。
ジャワ産 のウォッシュト精製では、イエメンの風味に負けてしまい、独創的な風味は作れないと考えます。
今回は、堀口珈琲ならではの高品質なイエメン産とティピカ系の貴重な在来品種であるスマトラ産「マンデリン “オナンガンジャン”」を使用します。
高品質なイエメンとマンデリンがなかなか同時に手に入らない時代が長く続いていましたので、挑戦したくてもできないまま月日が経ってしまいました。
しかし、ようやくその時がきました。
■鍵はイエメン産イタリアンロースト
まずは今回使用できる素材のイエメン「バニ・ナヒミ ナチュラル」とインドネシア「マンデリン “オナンガンジャン”」をそれぞれ複数の焙煎度でサンプルローストしてテイスティング。主軸にしていくキャラクターや全体のイメージを膨らませます。
イエメン産ナチュラル精製のコーヒーの基本風味は、イチゴのような果実感、さらにスパイス、ハーブのニュアンス、チョコレートのようなボディ感です。一方、スマトラ産のマンデリンは、青草や芝、檜の香り、明るくしっかりした果実感のある酸味、複雑なボディ感などの特徴があります。
これがそれぞれの焙煎度ではどのような表情を見せるでしょうか。そして、焙煎度にグラデーションをつけることで、2種類のブレンドでも複雑さと奥行きを出したいと思います。
・イエメン「バニ・ナヒミ ナチュラル」シティロースト
・イエメン「バニ・ナヒミ ナチュラル」フレンチロースト
・イエメン「バニ・ナヒミ ナチュラル」イタリアンロースト
・インドネシア「マンデリン “オナンガンジャン”」シティロースト
・インドネシア「マンデリン “オナンガンジャン”」フレンチロースト
5種類のサンプルを用意してテイスティングしましたが、このブレンドではイエメンをイタリアンローストまで焙煎して使用してみたいという思いが強く、この豆を軸にしたいと考えました。実際に、イタリアンローストまで深く仕上げたイエメンは苦さと甘さがあり、レーズンやドライイチジクのような乾いた果物のニュアンスが濃縮感をもって感じられます。
しかし、想定していたよりも軽く、もっとパンチが欲しい。追加で焙煎しました。
・イエメン「バニ・ナヒミ ナチュラル」深めイタリアンロースト
これが、焦げのぎりぎり手前。絶妙な焙煎です。
おそらく、この良質の素材と堀口珈琲の丁寧な焙煎でないと焦げてしまうでしょう。
より濃厚な苦みと甘み、ガッツのある、誰にも真似できないイエメンが生まれました。
■蘇ったモカジャバ
主軸が決まりましたので、次は相手となるコーヒーを探っていきます。
前述した通り、基本的に2種類のコーヒーをブレンドするので、焙煎度の違いでも風味に複雑さや奥行を持たせたいと思っています。主軸が深めのイタリアンローストなのでシティローストでは少し離れすぎ、バランスが悪くなるでしょう。
相手はフレンチローストか、浅めのイタリアンローストのマンデリン。繋ぎ役の可能性としてブラジルのフレンチローストも検証には加えています。
イメージのなかでうまくいきそうないくつかの組み合わせをテイスティングして風味を確認していきます。
※「I」はイタリアンロースト、「F」はフレンチローストを表します。
※数字は配合比率を表します。
AからFの6パターンの配合を試しています。
結論としては、シンプルに5:5で配合したAのパターンが最もバランスが優れていました。
まさに、作りたいと思っていた風味を体現する素晴らしい仕上がりです。
次点でBですが、文句なしにAでしょう。今回ブラジルを入れた場合はやや濁りを感じますし、イエメンの浅めのイタリアンローストを入れるとバランスが悪くなります。
ということで、かなり満足のいく仕上がりになりました。世界中どこを探しても飲めない、今回だけの堀口俊英流モカジャバをお楽しみください。
抽出レシピと楽しみ方
どんな器具を使用していただいても構いませんが、円錐のペーパーフィルターで抽出する方法がおすすめです。しっかり濃度がでます。
これをベースに、お好みや淹れたい杯数によって調整してみてください。
パパブレンドは下記を推奨の抽出方法(ペーパードリップ)としますが、好みで抽出量や抽出時間を加減してください。