TOP > 品種を楽しむ SL編
いざ、品種の世界へ
コーヒーについてちょっぴり深く踏み込みたい。
そんなとき、避けては通れないのがこの「品種」ではないでしょうか。
焙煎度や精製に比べると一気にハードルが上がった雰囲気がありますが、そんなことはありません。
ポイントを絞って少し触れてみるだけで、目の前のコーヒーがものすごく興味深いものになるはずです。
お店で知っている品種をみつけたらそれだけでうれしい気分になるかもしれません。
コーヒーを選ぶ・楽しむ視点のひとつとして、一緒に品種の世界を覗いていきましょう。
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注目されるコーヒーの品種
‐コーヒー選びのヒントに‐
ここ数年で随分とコーヒーの品種に関わる表記や記事が増えてきました。当店ではもちろん、スペシャルティコーヒーであれば必ずと言っていいほど品種の表記がありますし、品種の飲み比べや特定品種の深堀り記事もよく見かけます。ゲイシャ品種の登場もその流れに拍車をかけているのかもしれません。
では、なぜ注目されているのでしょうか?トレーサビリティを明確にする現在の流れもありますが、大きくは品種の違いがコーヒーの味わいに少なからず影響を与えているからです。つまり、みなさまの「コーヒー選び」にとって大切なポイントになるかもしれないからです。
と、通常の記事であればここで終わるのですが、私たちが伝えたいのはもう一歩先のお話です。
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品種の違いだけで味は決まらない
‐品種を楽しむ醍醐味とは‐
この品種の特徴はこうで、こういう味わいが楽しめます、というのは簡単です。簡単だからこそ誤解を与えかねません。
「この品種=この味わい」と思い込んでしまうと、ほぼ間違いなくそう感じないコーヒーが出てくるでしょう。むしろそんなコーヒーの方が多いかもしれません。土壌や気候、精製、焙煎、経時など、コーヒーの味わいに影響を与えるポイントは多くあります。飲むシーンや時には感情さえも。
それらが複合的に関係しあう中で、「品種の個性はどう表れるのだろう?」と探ること、これがコーヒーの“品種を楽しむ醍醐味”だと思っています。
私たちの第一目標は、みなさまに「おいしい!」と感じていただくことです。そこに「たのしい!」が加われば最高です。「品種」はそのための切り口の一つ。暗記作業とならず、ぜひこの“探る”を大切に飲んでみてください。
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コーヒーの品種について
みなさまが飲むコーヒーのほぼ100%はアラビカ種かカネフォーラ種(ロブスタ種)に属するコーヒーです。なかでも特に優れた香味を持つアラビカ種には100を超える品種(亜種、変種、栽培品種などを総じて)が存在します。お馴染みのブルボンやティピカ、ゲイシャはこの種に属する品種です。もちろん、今回のSLもその仲間です。突然変異によって品種が増えるケースもありますが、SL28やSL34のような選抜、あるいは人工交配などによって新しい品種を生み出す場合もあります。生産性や耐病性の向上、品質改善など、各国のコーヒー研究所では様々な理由によって、日々新しい品種への可能性が模索されています。
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アフリカから中米へ-SLの旅-
では、ここからは本特集のメインテーマである「SL」について詳しく掘り下げていきましょう。
-名称の由来-
パカマラやブルボンと少し異なる雰囲気の「SL」。この名称はケニアにかつて存在したコーヒー研究所「スコットラボラトリー(Scott Laboratories)」に由来しています。
ここに各地より集められた種苗のコレクションの中から、様々な目的に応じて選抜された品種に付けられるシリーズ名で、“SL”はScott Laboratoriesの頭文字、”28”や”34”はシリアルナンバーを示しています。
ここでは多くの品種が選抜・交配されていましたが、一般的に現在の高品質コーヒーの栽培品種として有名なのはSL28とSL34です、どちらも高い品質を保ちつつ、栽培環境やその風土により適応するように改良された品種です。
-SL28-
中〜高地栽培に適した耐乾性に優れた品種です。タンザニアで採取された品種から選抜されました。さび病やCBD(コーヒー炭疽病)に対する耐病性は持たないため慎重な対策が必要になりますが、その優れた品質や香味から現在でも広く栽培されている品種です。
-SL34-
SL28よりも収穫量が多く、また標高が高く雨量の多いエリアでの栽培にも適しているという利点があります。品質はSL28と同様に高いですが、同じく上記の耐病性は持ちません。
※品質ではSLに劣りますが、この耐病性の部分に優れているため徐々に生産量を増やしているのがRuiru11やバティアンという品種です。SLからこれらへ植え替えるケースもあるようで、これは近年のケニア全体の品質低下と無関係ではないように思います。
アフリカから中米へ
東アフリカで商品作物としてのコーヒー栽培が始まったのは19世紀後半だと言われています。 当時はヨーロッパ列強がアフリカを次々と植民地にしていく時代。コーヒーもこの時期にタンザニアやケニアなどへ持ち込まれました。 当初の収穫量は微々たるものでしたが、第一次世界大戦後アメリカなどからの需要が拡大し、東アフリカでの生産量も爆発的に伸びました。ケニアでは1913年から1930年の間にコーヒーの輸入量は約15倍、作付面積は約20倍にまで拡大したそうです。まさに急成長。
そんな20世紀初頭、スコットラボラトリーは東アフリカ初の本格的なコーヒー研究所としてイギリス統治下のケニアに設立されました。当時世界的に問題となっていたコーヒーの「さび病」、東アフリカ特有の厳しい「乾燥」や「CBD(コーヒー炭疽病)」に体制を持つ品種を生み出すべく積極的な品種選抜・改良が行われます。増加した需要に対してより効果的に供給量を増やすには、これらの対策が急務だったのでしょう。
※研究所は現在でも「国立農業研究所」と名前を変えて残っていますが、コーヒー研究の中心はケニアコーヒー委員会の管理下で運営されている「コーヒー研究財団」に移っています。
この過程で生まれたSL28およびSL34は、その狙い通りケニアの栽培環境に適応しました。優れた香味を備える点も高く評価され、現在のケニアコーヒーを支える一つの大事な要素となっております。今、そのSL系品種が大陸を超えた中米でも注目されています。
-脚光を浴びる注目品種に-
中米、特に近年のコスタリカの高品質コーヒー市場では、生産者たちは自分たちの商品の付加価値を上げ、市場の中でより優位に立つために様々な取り組みを行っています。それはハニープロセスなど精製に関わる事や、これまで扱ってこなかった品種にチャレンジするという形に現れています。後者において筆頭に挙げられる品種はゲイシャです。当店でも毎年注目しており、これまで【ドン・ホセ】や【サンタテレサ】などの生産者がユニークで優れたゲイシャをお届けすることが出来ています。
ゲイシャにスポットライトが当たる一方で、もう一つの潮流を生み出しそうなのがこのSLです。2000年代初頭にウェストバレーの生産者が初めて栽培し始めたとされるSLは徐々に普及し、今では多くの生産者がこの品種の栽培に挑戦しています。その高い品質とユニークな味わいが高く評価されています。 実際に、2020年のコスタリカCOE(品評会)の受賞において、26品目中8品目をSL系品種が占めており(ゲイシャは10品目)、いかにこの品種が注目されているかがわかります。
中米にわたったSLがその土地の土壌や環境、生産者と出会うことでどう“融合”し、新しい香味を備えるか。そういった点に今後はより注目していきたいと思っています。
-味わいの傾向-
柑橘系の瑞々しい酸(オレンジやグレープフルーツ)や、カシスやベリー系の果実の甘み、黒ぶどうやプルーンのニュアンスなど多彩な表現が用いられます。良質なケニアコーヒーにみられるこれらのキャラクターは、中米へ渡り環境が変わってもそなわっており、品種由来の個性として私たちを楽しませてくれます。ぜひ、みなさまの味覚でも探ってみてください。