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7年ぶりのコロンビア特集です
久しぶりの「コロンビア特集」です。
どれくらい久しぶりかと調べたら、7年ぶりでした。
裏を返せば、この7年間は“特集を組める程”の質と量をコロンビアで担保することが難しい状況が続いていた、ということでもあります。
かつては年間を通じてたくさんのコロンビアコーヒーをご紹介して「こんなに覚えられないよ」という充実っぷりでしたが、ここ数年はどうにか一握りの高品質コロンビアを販売できるといった状況で、3年前には買い付けできる生豆が0袋という年もありました。
そうした中で、産地を訪れて生産者や流通業者と協議を重ね、今年は素晴らしい品質のこれぞスペシャルティなコロンビアコーヒーを複数取り揃えることができています。
満を持してのコロンビア特集です。
今回は3種類のコロンビアコーヒーを用意しました。期間限定で飲み比べセットも用意しましたので、そのおいしさを楽しみ尽くしましょう。

そして記事後半ではコーヒー産地としてのコロンビアの現状をレポートします。
久しぶりのコロンビア特集ですので明るい話題をお届けしたいところですが、“スペシャルティコーヒー”の観点においては依然として厳しい状況が続いています。
8月に現地を訪れた生豆バイヤーは「かつてのコロンビアらしいマイルドなコーヒーはもうほとんど消失してしまった」「クリーンでスペシャルティの基準を満たすコロンビアコーヒーは全体の0.1%程度も残っていないのでは」と漏らします。
そうした中で私たちはこれからもスペシャルティ・コロンビアを扱い続けるための方法を模索しています。
その取り組みについて、8月の産地出張の様子も交えながらご紹介します。
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【飲み比べ】スペシャルティ・コロンビアを味わう
まずはコロンビアコーヒーのおいしさを楽しみましょう。
今回用意した3つのコーヒーは、いまコロンビアで失われつつある、私たちが考える“コロンビアらしいおいしさ”を備えたコーヒーです。コロンビア産の風味傾向を解説してから、順番にテイスティングしていきます。
スペシャルティ・コロンビアのおいしさとは

コロンビアコーヒーの風味を表す象徴的な単語は「マイルド」です。
国際コーヒー市場における“コロンビア・マイルド”という取引分類名が示すように、高品質なマイルドコーヒーを産出する代表的な生産国として知られています。
とはいえ、せっかく“スペシャルティ”を味わうので、「コロンビアってマイルドだよね」の先に進みましょう。
コロンビアにもさまざまな生産エリアがあり、エリアによって品質や風味傾向は変わります。これから味わっていただくのは、コロンビア南部“ナリーニョ”のコーヒーです。
ナリーニョは古くからコーヒーの名産地として名を馳せてきた生産エリアです。堀口珈琲のコロンビアの品質を支えてきた重要産地であり、コロンビアにおいて今後もスペシャルティの品質を維持できる可能性が残された数少ない産地でもあります。
ナリーニョの話は記事後半でじっくりしますので、ここでは味わいに集中します。
コロンビア・ナリーニョ産の特徴はこんな感じです。
<コロンビア・ナリーニョの一般的な特徴>
●ベースはスペシャルティコーヒーの基本の味わい
・きれいな柑橘のニュアンス:黄色やオレンジの柑橘が主体
・ほどよいコクと甘み
・ほのかに香るフローラル
・バランスに優れたマイルドさ
●濃縮感があり力強い
赤道直下の豊富な日照量と、アンデス山脈の高標高がもたらす昼夜の寒暖差といった恵まれた生産環境から、酸や香りの元となる成分が多く備わる。
力強く、しっかりとした味わいに仕上がりやすい。
ポイントは「酸や香りの元となる成分が多く備わる」「力強く、しっかりとした味わい」です。コーヒーの味わいを構成する各要素がバランス良く備わり、且つぎゅっと詰まったような“濃縮感”と“力強さ”が他にはないコロンビア・ナリーニョ産の特徴です。
今回は3つの農園のコーヒーをシティロースト(中深煎り)からフレンチロースト(深煎り)まで、3つの焙煎度に煎り分けて用意しています。ナリーニョならではの“濃縮感”と“力強さ”が、焙煎度の進行と共にどのようなおいしさとして表れるのか、実際にテイスティングしてみましょう。
【オンラインストア限定】コロンビア飲み比べセット
内容
・コロンビア 「ラ・クンブレ農園 ティピカ」 シティロースト
・コロンビア 「ガジナセーラ農園」 フルシティロースト
・コロンビア 「サン・フランシスコ農園」 フレンチロースト
計300g
販売価格:3,650 円(税込3,942 円)
販売期間:9月16日(水)〜 9月29日 AM8:00(火)の期間限定
【STEP 1】シティローストを味わう

最初に飲むのはシティローストです。
用意したのはナリーニョ産のティピカ品種。ティピカといえば“産地の個性を鏡のように映す品種”でしたね(「飲んで学べるスペシャルティコーヒー 基本の品種編」で詳しく解説しました)。
ティピカ品種でコロンビア・ナリーニョの個性をテイスティングしてみましょう。
【テイスティングするコーヒー】
コロンビア 「ラ・クンブレ農園 ティピカ」 シティロースト
【抽出レシピ】

【抽出のコツ】
注ぎ始めはじっくり焦らず、少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
【味わい】
まずは肩の力を抜いて一口。
とってもきれいで、バランス良くマイルド。その中に、爽やかな果実感があり、華やかな香りが漂い、甘みもしっかりありますね。長い余韻に至る隅々まできれいさ・おいしさが一貫しています。
何も考えずに飲んでも「あ、おいしいなこれ」「すごいコーヒーかも」と実感できてしまいますが、今回は細部に意識を向けながら“ナリーニョらしさ”をテイスティングしていきましょう。
最初のコーヒーですので少し丁寧に解説してみます。
・「なめらかな質感」
味や香りの特徴を見ていく前に、二口目は“テクスチャー(質感)”に集中し、口あたり・舌触り・のど越しの感覚に注目しながら飲んでみます。
まず、口あたりから“厚み”が感じられるのがわかるでしょうか。
サラッと口に入ってくるのではなく、一定のボリューム感と共に口に入ってくるイメージです。
舌の上に乗せると程よい量感があり、転がしてみるときめ細やかでなめらかな舌触りを捉えることができます。シルクのよう、と言ってもよさそうです。
喉越しもスムースで、飲み下したあとも舌の上に心地よい感覚が持続します。
口あたりから余韻に至るまで続く心地よい“なめらか”。これがナリーニョらしいしっかりとした質感です。
・「柑橘のニュアンス」
テクスチャーを捉えたら、続いて果実感を意識して飲みます。
スペシャルティ・コロンビアの“果実感”の基本は柑橘です。そのニュアンスはコーヒーの酸味・甘み・香り・質感が複合的に作用することでもたらされます。
まず酸味を意識して飲んでみましょう。
このコーヒーの酸味の量は“豊か”です。シャープで明るい印象の酸味です。とは言え「きつい」「酸っぱい」ではないので安心してください。“きれいで心地よい酸味”がしっかり備わっているのがわかるはずです。良質な酸味がしっかり備わるのが高品質なナリーニョ産の特徴です。
そしてそれに負けないくらいの甘みもしっかりいるので、角がなく丸みも帯びた印象として感じられます。そこに、前述したなめらかな“テクスチャー”、余韻には華やかなフローラルも加わります。
堀口珈琲創業者の堀口俊英は高品質なナリーニョ産の特徴を「ハニーレモン」と表現します。
レモンのような明るい柑橘に、蜂蜜のような甘み。このコーヒーにもそうしたニュアンスが感じられますね。
・「濃縮感と力強さ」
なめらかなテクスチャーに、酸味、甘み、香りといったコーヒーの味わいを構成する各要素が強・強・強のバランスで備わり、ぎゅっと詰まったような味わいとして感じられます。
これがナリーニョ産の“濃縮感” であり“力強さ”です。
これらのナリーニョらしさが焙煎度の進行と共にどう表れてくるのでしょうか。続いてフルシティローストに進みましょう。
【STEP 2】フルシティローストを味わう

フルシティは深煎りの中心に向かう過程にある焙煎度。ナリーニョらしい質感と甘みがより強調されて感じられるようになります。
STEP1で捉えた“ナリーニョらしさ”を意識しながらテイスティングしていきましょう。
用意したのは、ナリーニョ県ブエサコ市のベテラン生産者にして元ブエサコ市長でもあるニルソン・ロペスさんが手掛けたコーヒーです。
【テイスティングするコーヒー】
コロンビア 「ガジナセーラ農園」 フルシティロースト
【抽出レシピ】

【抽出のコツ】
シティローストよりも濃度感を出し、口当たりの良さを引き出すように意識します。抽出開始から35~40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、65秒程度を目安に抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースで。
【味わい】
テクスチャーを意識しながら一口目。
焙煎度の深まりとともに、口あたりの厚みが増しています。
舌触りも粘度が増していて、とろんとした印象のなめらかさが感じられます。
ほろ苦さとなめらかなテクスチャーに続いて、柑橘のニュアンスが口中に広がります。シティの明るい柑橘と比較すると柑橘の色味は濃くなり、熟したオレンジのような印象です。しっかり甘く、濃度・密度が高まっています。
フルシティは相対的に酸味が穏やかになる焙煎度でありながら、ガジナセーラ農園のフルシティには“華やか”と形容したくなるような果実味も感じられます。
余韻にはカカオのようなフレーバーも加わると、なめらかな質感と甘さとあいまって “ミルクチョコレート感”も漂います。
しっかりとした甘さ・なめらかさというフルシティらしさと、ナリーニョらしい濃縮感が掛け合わされた見事なおいしさです。
【STEP 3】フレンチローストを味わう

さいごはナリーニョの深煎りをテイスティングします。
深煎りのど真ん中、フレンチローストまで焙煎を進めると味わいの要素が増え、ボディは力強く、風味は複雑さを増します。
ナリーニョ産×深煎りの力強さ・濃縮感を味わってみましょう。
用意したのは堀口珈琲のナリーニョを象徴すると言っても過言ではない「サンフランシスコ農園」のコーヒーです。
【テイスティングするコーヒー】
コロンビア 「サン・フランシスコ農園」 フレンチロースト
【抽出レシピ】

【抽出のコツ】
深煎りらしい濃度感を出すため、焦らずじっくりと、濃い液体を抽出しましょう。抽出開始から40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、70秒程度を目安に抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
【味わい】
テクスチャーを意識しながらまず一口。
シティ、フルシティを経てのフレンチでは、口あたりの“分厚さ”を分かりやすく感じられますね。舌の上にのせると重量感があります。同時に深煎りらしい苦味もしっかりと感じられます。
どっしりと力強い。
そんな第一印象に続いて、濃密な甘さが広がります。苦味と質感の印象と複合してビターチョコレートを彷彿とさせます。
そこから“果実”が表れます。なめらかで濃厚な深煎りらしさの中に華やかな香りも加わると、ブラッドオレンジを思わせる柑橘、カシスを彷彿とさせる黒系果実のニュアンスも感じとることができます。酸味や甘さがしっかり備わるナリーニョ産だからこそ、深く焙煎してもなお感じられる複雑な果実感です。
余韻には甘いスパイスやフローラルがほんのりと漂います。
どっしりと力強く、なめらかで濃厚。とっても複雑。
それでいて余韻はエレガント。
これがスーパークリーンなナリーニョ産スペシャルティの深煎りです。
【オンラインストア限定】コロンビア飲み比べセット
内容
・コロンビア 「ラ・クンブレ農園 ティピカ」 シティロースト
・コロンビア 「ガジナセーラ農園」 フルシティロースト
・コロンビア 「サン・フランシスコ農園」 フレンチロースト
計300g
販売価格:3,650 円(税込3,942 円)
販売期間:9月16日(水)〜 9月29日 AM8:00(火)の期間限定
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おいしさの背景
‐コーヒー産地としてのコロンビア‐
スペシャルティ・コロンビアのおいしさを存分に味わいましたので、
ここからはそのおいしさの背景を知りましょう。
本特集の副題に“消えゆく”というワードをいれました。
2章でテイスティングしたようなコロンビアコーヒーを現地で探すことは難しく、ほとんどが消失してしまいました。“幻のコーヒー”と言えば少し扇情的に聞こえますが、そうした表現が大袈裟とも言いきれない状況まできています。
コーヒー生産国としてのコロンビア
話を進めていく前に、基礎知識を抑えておきましょう。
「…そもそも、コロンビアってどの辺にあるんだっけ?」という方も実は多いのではと思いますので、地図から眺めてみましょう。

コロンビアは南米大陸の北西部に位置しています。
同国の北西側は中米のパナマ、南東側はペルーやブラジルといったコーヒー好きの皆さまにはお馴染みの国と国境を接しています。
位置を掴んだら、今度は地図をズームアップして、コロンビアの地形に注目して眺めてみます。

同国の西側を南北に縦断するように山脈が走っているのがわかりますね。
かの有名なアンデス山脈です。
このアンデス山脈が高標高と昼夜の寒暖差、降雨や火山性土壌といったコーヒー栽培に適した環境をもたらし、この山脈に沿って北部・中部・南部とコーヒー生産エリアが広がっています。
コーヒーの生産量はブラジル、ベトナムに次いで世界第3位。
生豆60kgの麻袋換算で、年間で約1,400万袋。
“コーヒー生産大国”と言って差し支えないでしょう。
コロンビア経済においてコーヒーは今も昔も重要な輸出産品であり、主要な外貨獲得手段という位置づけです。
次に、コーヒー産地の様子を眺めてみましょう。


上の写真が同じ南米のコーヒー生産大国ブラジルの産地風景で、下の写真がコロンビアのコーヒー産地です。
同じ南米のコーヒー産地ですが、だいぶ雰囲気が違いますね。
ブラジルは広大な土地で大規模農園によるコーヒー生産が行われているのに対し、コロンビアは複雑に入り組んだ山脈の斜面で、小規模生産者中心のコーヒー生産が行われています。
この小規模生産者たちによって生産量世界3位を誇るコーヒーが生み出されている訳ですが、その生産を支える土台として機能しているのがFNCと呼ばれるコーヒー生産者連合会です。
約100年前の1927年に設立されたこの組織は、生産者への技術支援から研究開発、品質管理、流通・輸出、海外での販売促進に至るまで幅広く担い、コロンビアのコーヒー産業を支えてきました。
公的な機関ではなく民間組織ですが、国の経済に影響を与えるコーヒー産業を代表する組織ですから、政府と共同でコーヒー政策を協議するなど、国家との結びつきが強い性質を持っています。
コーヒーが国の経済を支える重要な産業であることを背景に、FNCはコーヒー生産大国としての発展に大きな役割を果たしてきたのです。
余談ですが、コーヒー農家出身でこのFNC創設にも関わった人物が、後にコロンビア大統領にもなっています。
スペシャルティ産地としてのコロンビア

コーヒー生産大国としてのコロンビアの基礎知識を理解した上で、こんどは“スペシャルティ”の観点からコロンビアを見ていきましょう。
スペシャルティコーヒーが世界的な広がりをみせたのは2000年代。
日本においては堀口珈琲がパイオニアとして、さまざまな生産国の高品質なシングルオリジンを開拓していきました。
一方でコロンビアにおいて“スペシャルティ”が開花するのは2010年代の中頃と、少し遅めです。というのも、高品質なコーヒーを生産するポテンシャルの高いコロンビア南部は内戦の影響で商社やロースターが現地に入ることすらできない状況が続いていたからです。
2章でテイスティングしたコーヒーの産地ナリーニョもまた、そうした背景から2000年代までは米国の大手コーヒーチェーンがほぼ独占的に扱ってきた産地でした。
状況が変わり始めた2013年、当社生豆バイヤーの若林(現社長)が初めてナリーニョを訪れます。
まだ治安が不安定な時期ですし、そもそもナリーニョは地理的に周囲から隔絶された僻地ということもあり、当時は海外のロースター含め「誰もナリーニョに行こうとしなかった」と若林は語ります。
誰も行かないから、行ったら歓迎されたようです。
今回テイスティングした「ガジナセーラ農園」の生産者ニルソン・ロペスさんも「サンフランシスコ農園」の生産者ディエゴ・ロペスさんも、2013年の訪問で歓迎してくれた生産者です。
ナリーニョは、日本でいう“田舎”です。
「田舎のコミュニティだからこそ、直接訪れてちゃんとコミュニケーションを取れば、憶えてくれて、良くしてくれる。コーヒーの品質に関する話だけでなく、出してくれた現地の食べ物は喜んで食べて、出してくれたお酒は喜んで飲んで、話す。毎年訪れて関係性を構築していった」
と若林は語ります。
今でこそ、コロンビアのマイクロロットは当たり前のように流通していますが、ナリーニョをはじめコロンビア南部のマイクロロットを2010年代前半にいち早く商品化した先駆者は堀口珈琲でした。

2010年代の後半にはナリーニョだけでなくコロンビア南部のウィラ、カウカ、トリマ地区のマイクロロットの商品化も進みます。最盛期には年間で数十種類ものコロンビアコーヒーを販売していました。
参考までに当時の履歴を辿ってみたところ、たった2ヶ月間でウィラのコーヒーを16種類もリリースした、という記録を見つけました。
マニアックすぎてお客さんを置き去りにしてたんじゃないか…という懸念もありますが、その頃にコロンビアのおいしさを知って以来コロンビアファンになったという方も多くいらっしゃることでしょう。
そのように、きら星のごとく存在していた多様なスペシャルティ・コロンビアのほとんどが消失してしまった、というのが今置かれている状況です。
次の章で解説していきます。
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消えゆくスペシャルティ・コロンビア
2026年の8月に現地を訪れた生豆バイヤーは落胆しながら「かつてのコロンビアらしいマイルドなコーヒーはもうほとんど消失してしまった。クリーンでスペシャルティの基準を満たすコロンビアコーヒーは全体の0.1%程度も残っていないのでは」と漏らします。
実際、現地でたくさんのサンプルをカッピングしても、2章でテイスティングしたディエゴ・ロペスさんとニルソン・ロペスさんのコーヒー以外でスペシャルティの基準を満たすロットはみつけられなかったようです。
なぜでしょうか。
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一つ目の理由は品種です。
コロンビアはかつて伝統的なティピカ品種の産地でした。
クリーンに仕上がりやすく、“産地の個性を鏡のように映す”ティピカ品種が、コロンビア・マイルドと謳われる高品質コーヒーの土台をつくりました。その後、ティピカ品種は生産性の高いカトゥーラ品種へと植え替えが進められます。土地との相性によっては重たい印象になりやすいカトゥーラ品種ですが、コロンビアの環境との相性は良く、重たい印象になりすぎずクリーンなコロンビアコーヒーを生み出してきました。
やがて耐病性にも優れたハイブリッド品種が登場すると、カトゥーラ品種はハイブリッド品種へと転換されていきます。
3章で解説したように、コロンビアはコーヒー生産大国です。
コーヒーの生産“量”が、国の経済を支えています。
生産量を安定的に維持するには、風味が優れていても生産性がそれほど高くなく、病気にも弱い伝統品種を栽培し続けるより、生産性が高くて病気にも強いハイブリッド品種への転換が得策です。
前述したFNC(コロンビアコーヒー生産者連合会)は1938年にコーヒー研究機関を設立します。そこでの研究テーマの一つが「病害対策」であり「品種改良」でした。
コロンビア独自のハイブリッド品種の研究開発が進められ、カトゥーラ品種とHdT(アラビカ種とカネフォラ種の交配種)を交配したコロンビア品種が1980年代に、その後継であるカスティージョ品種が2000年代にリリースされ、国策のように植え替えが進められてきたのです。
“スペシャルティ”の観点において、ハイブリッド品種は難しい品種です。
・穀物臭
・余韻まで残る渋さ
・酢を連想させる刺激的な酸味
といった品種由来のネガティブな要素がもたらされやすいためです。
また、そうしたハイブリッド品種由来のネガティブを改善してスペシャルティを目指すために、過完熟になるまで待ってからチェリーを収穫したり、フレーバーを付加するような過度な精製を施すことで発酵臭や刺激的な酸味が助長されてしまい、かえってクリーンが損なわれているコーヒーもコロンビアで大発生しています。
と、ここまでの書きぶりではハイブリッド品種が悪者のようになってしまいますが、そう単純な話ではありません。コーヒー生産大国コロンビアのコーヒー産業においても、私たち消費国においても、ハイブリッド品種の推進はプラスの効果をもたらしています。
コロンビアのコーヒー生産量が安定的に維持されることで小規模生産者たちの収入は安定し、世界の消費国にたくさんのコロンビアコーヒーが安定的に供給されることで多くの人々がそのメリットを享受しているからです。
実際、2000年代後半から2010年代前半には病害等の影響でコロンビアコーヒーの生産量が800万袋程まで落ち込みましたが、2010年代後半には1400万袋まで回復し、その生産量を維持しています。
ハイブリッド品種は、そこまで標高が高くない環境でも一定の品質のコーヒーをたくさんつくるという点で優れた品種です。国全体の生産量や、農家の安定性という観点においてはハイブリッド品種への植え替えは合理的な判断だと言えるでしょう。
一方で、高標高の環境下で高い品質のコーヒーを目指す“スペシャルティ”の観点においては、ハイブリッド品種への転換が必ずしもメリットをもたらすものではありません。
ナリーニョの高標高農地で栽培されたハイブリッド品種には高品質なものもありますが、そもそも標高2,000m付近はきちんと管理すればさび病の流行規模を相対的に抑えやすい環境(さび病は高温多湿な環境で広がりやすい)です。
病気のリスクが低く高品質に特化できる高標高の環境においては、きちんと栽培管理をしてクリーンな風味に仕上がりやすい伝統的なティピカ品種やカトゥーラ品種をつくり続ける方がスペシャルティを目指すにはメリットがあると私たちは考えます。
しかし実際には標高2,000m付近の高標高の環境でもカスティージョへの植え替えが進められています。
国のコーヒー産業がスペシャルティに特化しているコスタリカでは風味の観点からハイブリッド品種を推奨せず、カトゥーラやカトゥアイといった非ハイブリッドアラビカの生産を薦めて高品質化をはかっていますが、“コーヒー生産大国としてのコロンビア”という背景を踏まえると、ハイブリッド品種によって生産量と安定性の確保に向かうのは致し方ないのかもしれません。
理由�◆屮好撻轡礇襯謄�市場のトレンドと消費国ロースターのリクエスト」
もう一つの要因として、スペシャルティ市場のトレンド/消費国ロースターのリクエスト、も挙げておきます。
近年のスペシャルティ市場では、特徴的な風味の品種や派手な味わいをもたらす特殊精製のコーヒーを高く評価する、というトレンドが続いています。
伝統品種がもたらすきれいでコロンビアらしいマイルドなウォッシュトコーヒーよりも、ゲイシャやピンクブルボンといった特徴的な風味の品種や、アナエロビックやインフューズドコーヒーといった加工工程で発酵由来の風味が付加されたコーヒーを消費国のロースターが高く評価し、高い値段で買付をすることで、そうしたコーヒーづくりへの転換も急速に進んでいます。
特にコロンビア南部のウィラにおいては顕著で、かつてのウィラにあったようなクリーンなウォッシュトコーヒーは消失してしまいました。そうした傾向がコロンビア全域にも広がりつつあります。
スペシャルティ産地としての歴史がまだ浅く、品質に対する価値基準が十分に定着していないコロンビア南部において、小規模生産者たちが消費国ロースターのリクエストに応じて、“高く売れる”コーヒーづくりへと向かうのも、ある意味では自然なことなのかもしれません。
8月に当社生豆バイヤーがコロンビアを訪れた際、現地エクスポーターの品質管理担当者に「かつてのコロンビアらしいマイルドなウォッシュトコーヒーをどうやったら確保できるか」と問いかけましたが、
「10年前はウィラにたくさんあり、ナリーニョにもあった、他の地域でも探すことができたが、今はウィラで探すのは無理だと思うし、生産者に生産を依頼するにしても、これまで全く異なるリクエストに応え続けてきた中で突然昔のコーヒーを作ってほしいと言われたところで元に戻すのは難しいだろう。ナリーニョはまだ可能性があるのでナリーニョで取り組むのが良いと思う」
というさみしい回答でした。
堀口珈琲の取り組み
‐スペシャルティ・コロンビアをつくり続けるために‐
後ろ向きな話が続いてしまいましたが、さいごは前向きな話題で特集を締めたいと思います。
かつてのコロンビアらしいマイルドコーヒーが“消えゆく”状況下で、私たち堀口珈琲はスペシャルティ・コロンビアを扱い続けるための取り組みを模索しています。
それは
「高品質をつくるポテンシャルを備えたナリーニョの高標高の環境下で、私たちが求める品質を理解し、確かな技術と知識とマインドを持ち合わせた生産者と一緒に、高い品質のコーヒーをつくり続ける」
です。
なんだ、当たり前のことじゃないか。と思われるかもしれませんが、コロンビアにおいてこうした考えに共感して一緒に取り組んでくれる生産者は稀有です。
2章でテイスティングしたコーヒーの生産者、ディエゴ・ロペスさんとニルソン・ロペスさんは私たちがコロンビアに初めて訪れた年に出会った生産者です。そこから長い年月をかけて信頼関係を構築してきました。
他にもさまざまなエリアのさまざまな生産者のコーヒーを開拓してきましたが、時代の移り変わりを経て、いまもスペシャルティのクオリティを維持してくれているのはこの二人だけです。2013年に世界中のロースターに先駆けてナリーニョに入り、二人の優秀な生産者に出会えたのは幸運でした。
今年の8月の産地出張でも、生豆バイヤーがそれぞれの農園を訪れています。
ディエゴ・ロペスさんの管理する「サンフランシスコ農園」はほぼ100%カトゥーラ品種の農地です。今後、古くなった木を植え替えつつ、樹間をもう少し広く取って生産性を高める計画を進めていく上で、ティピカ品種の新植を検討してくれています。
今回の訪問では一緒に農地を歩き回りながら、どのあたりから植え替えを進めていくとよいかなどを話し合い、カトゥーラ中心にリノベーションを進めていく場所とティピカを植える場所をざっくりと選定しました。
ちなみに2章でテイスティングした「ラ・クンブレ農園」はディエゴ・ロペスさんのパートナーであるビビアナ・メナさんが管理する農地で、ティピカ品種は私たちのリクエストによって生産してくれている堀口珈琲専用ロットです。ナリーニョにティピカはもうほとんど残っていません。本当に貴重なコーヒーです。
「サンフランシスコ農園」はカトゥーラでも十分ですが、ティピカも実現するとしたらどんな味わいになるのでしょうか。商品化までには長い時間がかかりますが、期待していてください。
ニルソン・ロペスさんは2019年から2023年までブエサコ市の市長を務めており、その間は忙しすぎてコーヒーに時間を割くことができず、しばらくニルソンさんのコーヒーを扱うことができませんでした。昨年に久しぶりに当社生豆バイヤーが彼の元を訪れてコミュニケーションを取り、8年ぶりの復活を実現することができています。
今年も彼の元を訪れて今期の状況確認をするとともに、新しいプロジェクトについても話し合いをしてきました。周辺でコーヒー生産をするロペス家の親族のコーヒーを集めたリージョナルロットをつくる計画です。
ニルソンさんが継続的に働きかけていたものの、なかなか精製・乾燥まで精度高く実行できる人がいなかったことから、チェリーを引き受けてニルソンさんが精製・乾燥を仕上げる、というスキームを開始していました。そのために精製のための設備も新調していました。
サンプルのカッピングで高いポテンシャルを確認できたので、こちらも期待していてください。
ニルソンさん自身の農地は、サンアントニオ、ガジナセーラ、エル・バドの3農地があります。このうちのサンアントニオについて、市長の任期中に木の状態が悪くなってしまったため、多くのカトゥーラを植え替えてしまっていたことが昨年の訪問でわかりました。カトゥーラの代わりに植え替えたのはタビやピンクブルボン、パパージャといった流行りの品種でした。
今回の訪問時に確認すると、これらの品種があまり良い結果を得られていないようで、ニルソンさんも世話をきちんとすれば生産量も品質もカトゥーラが良いことを改めて認識していると話されていました。私たちとしてもカトゥーラが望ましいので「植え替えるならカトゥーラを候補にしてほしい」とリクエストしています。
ディエゴ・ロペスさんとニルソン・ロペスさんとのプロジェクトを進行させつつ、
現地でコーヒーの流通を担ってくれているエクスポーターの品質管理担当者には私たちがコロンビアに求めているコーヒーがどんな品質のどんな味わいのコーヒーなのかを丁寧に伝えて共有し、一緒に品質をつくってくれる新たな生産者を探してほしいとリクエストしています。
消失してしまったスペシャルティ・コロンビアを一からやり直すべく、ワークを始めてもらっています。
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さいごに
コロンビアコーヒーは、時代とともに変化してきました。
病気に強く生産性の高い品種への転換も、特徴的な品種や特殊な精製のコーヒーをつくることも、生産者の生活や産業を支えるための合理的な選択です。そうした変化を、一概に良い・悪いと語ることはできません。
一方で、そうした変化の中で、かつてコロンビアに当たり前のように存在していた、クリーンでマイルドな高品質コーヒーがほとんど消失してしまいました。
求める品質を生産者・流通業者と共有し、その土地だからこそ生み出せるおいしさを一緒につくり続ける。それが、これからもスペシャルティ・コロンビアを扱い続けるために、私たちが取り組むべきことだと考えています。
今回テイスティングした3つのコーヒーには、私たちが長年コロンビアに求めてきたおいしさが備わっています。自信をもってお届けできる最高品質のスペシャルティ・コロンビアであり、幻となりつつあるクリーンなコロンビア・マイルドです。
まずはぜひ、そのおいしさをじっくりと味わってみてください。
【オンラインストア限定】コロンビア飲み比べセット
内容
・コロンビア 「ラ・クンブレ農園 ティピカ」 シティロースト
・コロンビア 「ガジナセーラ農園」 フルシティロースト
・コロンビア 「サン・フランシスコ農園」 フレンチロースト
計300g
販売価格:3,650 円(税込3,942 円)
販売期間:9月16日(水)〜 9月29日 AM8:00(火)の期間限定
