TOP > はじめてのスペシャルティブレンド #5編
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“スペシャルティブレンド”とは?
スペシャルティブレンド。
私たちスペシャルティコーヒーロースターにとって、きちんと仕上げることがとても難しい、最高難度の提供方法です。
ブレンドするのは、単体で飲んでも風味に個性が感じられる、スペシャルティと呼ぶにふさわしい品質のコーヒーだけ。
最高品質のシングルオリジンを使用して、シングルオリジンでは味わえない特別なおいしさを目指して作り込んでいます。
シリーズ企画「はじめてのスペシャルティブレンド」では、堀口珈琲が定番として展開する9つのスペシャルティブレンドをテイスティングしながら特別なおいしさへの理解を深めていきます。
今回取り上げるのは「#5 SMOOTH&CHOCOLATY」。
スムースな質感と、チョコレートのような濃度がありつつもなめらかな質感をテーマにした、「質感」をとても重視しているブレンドです。
もちろんCHOCOLATYというタイトル通り“チョコレートの味わい”もしっかり意識しています。
ダークチョコレートというよりミルクチョコレートよりでしょうか。
酸味や苦味は強すぎず、ほどよく穏やかに。甘みはしっかりひつようです。
カカオのような香りに、ほんのりと花やバニラを思わせる甘い香りも漂うと“チョコレート感”が現れ始めます。
そこに、なめらかで粘性のあるテクスチャーが加わって、“チョコレートの味わい”です。
そう、地味なようで大切な要素は「テクスチャー(質感)」。
パサパサ・ボソボソ・カチカチなチョコレートが残念なように、“チョコラティ”な風味を表現するブレンドにおいても口どけのよいなめらかなテクスチャーが鍵を握ります。
コーヒーの、テクスチャー??
固形物のチョコレートであればイメージしやすいですが、飲料であるコーヒーはイメージが湧きにくいですよね。普段からテクスチャーを意識してコーヒーを飲む方も少ないでしょう。
しかし、「このコーヒーおいしいな」と何気なく感じる裏では必ずテクスチャーがいい仕事をしています。
9つの定番ブレンドは全てテクスチャーを意識して風味が設計されています。その中でもテクスチャーを重視して創られているブレンド、テクスチャーを全開で楽しめるブレンドが「#5 SMOOTH&CHOCOLATY」です。
今回は#5を中心に、3つのコーヒーを飲み比べることでなめらかなテクスチャーがもたらすおいしさを実感しましょう。
きれいでなめらかなスペシャルティブレンドを楽しんだら、記事の後半では「ブレンドの価格」をテーマに、生産者へヒアリングを交えながら価格の背景を紹介します。
スペシャルティブレンド 飲み比べセット
内容
・グァテマラ「サンタカタリーナ農園」フルシティロースト 100g
・#5 SMOOTH&CHOCOLATY フルシティロースト 100g
・#1 BRIGHT&SILKY ハイロースト 100g
計300g
販売価格:3,450 円(税込3,726 円)
販売期間:2026年9月2日(水)〜9月15日(火) AM8:00の期間限定
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【飲み比べ】スペシャルティブレンドを味わう
それでは、実際にコーヒーを味わってみましょう。
テイスティングは3ステップでおこないます。
まずはブレンド「#5 SMOOTH&CHOCOLATY」の素材にもなっているシングルオリジン、グァテマラ「サンタカタリーナ農園」で基本の“なめらか”を味わいます。
次に「#5 SMOOTH&CHOCOLATY」をテイスティングして、ブレンドならではのなめらかなテクスチャーを体感します。
最後に浅煎りブレンド「#1 BRIGHT&SILKY」を味わい、テクスチャーの違いを楽しみましょう。
1.【ステップ1】基本の“なめらか”を味わう

「サンタカタリーナ農園」はグァテマラの名産地アンティグアの名門農園で、堀口珈琲の20年来のパートナー生産者。バランスに優れたマイルドな味わいは“スペシャルティコーヒーのお手本”のような素晴らしいコーヒーです。
まずはこちらのコーヒーで基本の“なめらか”を体験していきます。
【テイスティングするコーヒー】
グァテマラ「サンタカタリーナ農園」フルシティロースト
【味わい】
いきなり「テクスチャー!テクスチャー!」と質感だけに意識を向けてしまうとコーヒーのおいしさを楽しめませんので、一口目は肩の力を抜いて飲みましょう。
ほろ苦さから始まります。カカオのような香りと共にしっかりとした甘さが広がります。余韻にかけてはほんのりと花の香りも漂います。
「心地よい」「安心感のある」そんなおいしさを感じられたらまずOKです。
続いてテクスチャーに意識を向けて二口目にいきます。
口に入ってくる時の「口あたり」を感じてみましょう。ざらつきやひっかかりがあるような感じはなく、スルっと口に入ってきて口の中に広がるような感覚。心地よい口あたりです。
口中の感触「舌触り」にも意識を向けてみます。舌の上にのせると、程よい量感を感じます。少し口中で動かしてみましょう。ざらつきやひっかかりがあるような感じはありません。歯茎や舌がキュッと強く締め付けられるような感覚はありますでしょうか?ないと思います。渋み(収斂)がこの締め付けられる感覚をもたらしますが、このコーヒーにはありません。とても心地よい舌触りです。
飲み下す時の「喉ごし」まで意識してみます。心地よい口あたり・舌触りを感じたら、ゆっくりと液体を飲み下してみましょう。ここでもひっかかるような感覚はなく、スムースな喉ごしが感じられます。そして、余韻として口中に留まる心地よい感覚が、ゆっくりと消失していきます。
この、口あたりから飲み下した後までの心地よい感覚が「なめらかなテクスチャー」です。
最後は、またリラックスして全体のおいしさを味わいましょう。
一口目に感じた「心地よい」「安心感のある」おいしさに、テクスチャーが良い仕事をしていることに気がつくでしょう。
2.【ステップ2】ブレンドならではのなめらかなテクスチャーを体感する

続いて今回の主役であるスペシャルティブレンド「#5 SMOOTH&CHOCOLATY」を味わいます。
ステップ1で飲んだグァテマラ「サンタカタリーナ農園」と比較しながらテイスティングしていきます。
【テイスティングするコーヒー】
・#5 SMOOTH&CHOCOLATY フルシティロースト
【味わい解説】
今回もまずは肩の力を抜いて一口目。
おいしさのベクトルは「サンタカタリーナ農園」と同じ方向ですね。「心地よい」「安心感のある」おいしさです。
ステップ1でテクスチャーを丁寧に捉える体験を経た皆さまは一口目で「おや?」と、早くも違いを感じたかもしれません。
二口目はテクスチャーに集中しましょう。
やや厚みのある口あたりから始まります。
舌の上に乗せるとすこし粘性を帯びていて、量感も増している印象を受けます。一定の密度がありながら “重厚”とまではいかず、きめ細やかで心地よい舌触りです。
喉越しのスムースを確認したら、口中に留まる感覚に最後まで意識を向けましょう。
余韻が長いです。
甘い余韻が長く持続していく中に、花のような香りやバニラのような甘い香りも現れます。
三口目、四口目とゆっくり味わい、その長い余韻が終わる頃には、“普通のコーヒー”のようでいて実は普通ではない、このブレンドの複雑さに気づき始めます。
複数の素材をブレンドすることでおいしさを構成する要素が増え、密度が高まることでなめらかなテクスチャーはよりきめ細やかに感じられます。そのテクスチャーは舌触りの心地よさだけでなく余韻の長さももたらし、香りの持続性や味わいの濃密さ・複雑さを助長してくれています。
ブレンドならではの“なめらか”を体感できたら、あとはおいしさを楽しみましょう。
口どけのよいチョコレートのような口あたりから、ほろ苦さと共にしっかりとした甘みが広がって、カカオ、花、バニラの様な甘い香りがほんのりと漂い、余韻までなめらかな甘さが持続する。
これがスペシャルティブレンドで表現する“チョコラティ”です。
3.【ステップ3】異なるテクスチャーを感じてみる

最後に「#1 BRIGHT&SILKY」をテイスティングし、#5とは異なるテクスチャーを感じます。
浅煎りブレンド#1で表現するテクスチャーは“シルキー”です。
しなやかできめ細やか、シルクのようなテクスチャーとは?
飲んでみましょう。
【テイスティングするコーヒー】
#1 BRIGHT&SILKY ハイロースト
【味わい解説】
まずは肩の力を抜いて一口。
すっきりとした飲み口から始まります。爽やかな果実感が口中に広がると、花のような香りが漂い、飲み下した後も心地よく残ります。
味や香りは派手すぎず、澄み渡るような“きれいさ”の中に果実と花が品良く感じられます。
二口目はおいしさをもう少し丁寧に捉えてみます。
アタックで広がる快活な果実感は黄色い柑橘を彷彿とさせます。中盤から余韻にかけて華やかな香りや甘さが現れると、青りんごや白ブドウを思わせる果実のニュアンスも加わります。
そして、長い余韻。
浅煎りらしい爽やかさ・華やかさが、浅煎りとは思えないほど長く続きます。
この口あたりから余韻に至るまでの心地よさ、味や香りの持続性を支えているのが“テクスチャー”です。
テクスチャーに集中して三口目。
舌の上で転がすようにしてテクスチャーに注目して飲んでみましょう。浅煎りらしい軽やかさの中にほどよく量感があり、舌触りはとてもきめ細やかです。中深煎りのブレンド#5のような高い密度・粘度とは異なる、しなやかで柔らかなテクスチャー。これがブレンドで表現する“シルキー”なテクスチャーです。
スペシャルティブレンド 飲み比べセット
内容
・グァテマラ「サンタカタリーナ農園」フルシティロースト 100g
・#5 SMOOTH&CHOCOLATY フルシティロースト 100g
・#1 BRIGHT&SILKY ハイロースト 100g
計300g
販売価格:3,450 円(税込3,726 円)
販売期間:2026年9月2日(水)〜9月15日(火) AM8:00の期間限定
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【読み物】ブレンドの価格
ここからはブレンドにまつわる「読み物」です。
読めばさらに理解が深まり、楽しさも増す、そんな内容をお届けします。
今回のテーマは「ブレンドの価格」です。
はじめて堀口珈琲のオンラインストアや店舗を訪れてコーヒー豆を買おうとした時、その“価格”に「おや?」と思った方が少なくないと思います。
一般的なコーヒーの値付けは「ブレンド<シングルオリジン」(シングルオリジンの方が高い)であるのに対し、堀口珈琲の値付けは「ブレンド≧シングルオリジン」(ブレンドの方が高い)が基本だからです。
もちろん、理由があります。
今回は“価格”面からブレンドを掘り下げてみます。
3−1.ブレンドはシングルオリジンよりも安い?
コーヒーの作り手がブレンドをつくる目的の一つに「コストの調整」があります。
定価1000円の豆に、300円の豆を混ぜて、500円で販売する。
少しシンプルすぎますが、そんなイメージです。
わかりやすい例を挙げると「ゲイシャブレンド」や「ハワイコナブレンド」です。
高額な豆に、安価な豆をブレンドすることで、知名度のある産地や品種の名前を借りながら原価を抑えて商品を販売することが可能になり、消費者は比較的安価な価格でそうしたコーヒーを手に取ることができます。
古くからの日本の喫茶文化においてもブレンドよりストレート(シングルオリジン)の方が高い価格で提供されることが多く、2010年代のサードウェーブムーブメント以降は「スペシャルティ=シングルオリジン」という発信も多くなされたことで、
・何も混ざってない高品質なコーヒー = シングルオリジン
・安価な豆が混ざっている日常コーヒー = ブレンド
これが一般的なイメージとして広がっています。
3−2.堀口珈琲のブレンドの価格
ブレンドには価格を抑える目的でつくられるものもあれば、味わいを追求するためにつくられるものもあります。
堀口珈琲が目指しているのは後者です。
最高品質のシングルオリジンを使用して、シングルオリジンでは味わえない特別なおいしさを目指して作り込むのが堀口珈琲のスペシャルティブレンドです。
と、このくだりは本シリーズ企画のバックナンバーを読んでいただいている方に「何度も読んで知ってるよ」「くどいよ」と思われてしまいそうですが、大事なので繰り返させてください。
シリーズの第二回目の記事で、堀口珈琲のブレンドづくりを担う主任ブレンダー秦がこんなことを言っていました(バックナンバーを読んでいただいている方は覚えていますでしょうか)。
「9つの定番ブレンドを作り続ける仕事はほんとうに非合理的で非効率的」
「9つのブレンドをつくるためには、それぞれの素材となるシングルオリジンを個別に焙煎する必要があります。1つのブレンドには2〜4種類の素材を使うので、単純計算で考えると常に約30種類ほどのコーヒーを焙煎し続けなければなりません。」
「仮に9つの定番ブレンドがなくて、その時々でシングルオリジンを10種類並べるだけでよければ、焙煎の回数も、それに付随する選別や充填の作業も、品質チェックのためのテイスティング業務も1/3以下になります。とっても効率的に業務を回すことができるようになります。」
効率だけを考えれば決して合理的ではない9つの定番ブレンド。
それでも私たちがつくり続けているのは、それが堀口珈琲の“顔”であり、堀口珈琲がつくりたい“コーヒー”だからです。
その味わいは、他のどのコーヒー屋さんでも体験できない、オリジナルなものです。
シングルオリジンでは味わえない、特別なおいしさです。
“定番”ブレンドですから値付けにおいては無理なく気軽に飲み続けていただける価格を意識します。とは言え、価格を抑えるために低品質な豆を混ぜてしまっては本末転倒です。
高品質な豆だけを使ってコストをかけて特別な味わいを作り込む。こうしたブレンドづくりを価格にも反映し、堀口珈琲のブレンドはシングルオリジンと同等かそれ以上の価格に設定しています。
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【読み物】スペシャルティブレンドの価格とその背景
近年、あらゆる食料品や日用品の値上げが続いています。
コーヒー豆も、スーパーの棚からスペシャルティ専門店まで軒並み値上がりが続いているのは皆さんも実感されている通りです。
その背景には、他の食品と同様に、包材をはじめとする資材価格や輸送費、人件費などの上昇があります。それに加えてコーヒーには、生豆そのものの国際価格が大きく上昇しているという事情があります。
堀口珈琲のブレンドもまた、8月に値上げをしました。
ここからはその背景をできるだけ詳しくお伝えしてみます。
4−1.近年のコーヒー生豆相場高騰と、これからの見通し
2026年8月現在、ニューヨーク市場のアラビカコーヒーは依然として1ポンド300セントを超える歴史的な高値圏にあります。5年前と比べても大幅に高い水準です。
なぜこれほど高いのでしょうか。
一般に商品相場は「需要と供給のバランス」によって変動します。
しかし、現在のコーヒー相場を「世界の需要が増え続ける一方、気候変動によって生産量が減っているから高騰している」とだけ説明するのは正確ではありません。
むしろ2026年以降については、世界のコーヒー供給は増加するという見方が有力です。
その中心にあるのが、世界最大の生産国ブラジルです。
コーヒーは農作物なので、もちろん天候の影響を大きく受けます。
しかしブラジルのコーヒー産業では、大規模化、機械化、灌漑、品種改良、栽培技術への投資が進んでいます。取引価格が投資コストに対して十分に高ければ、増産への投資が促され、栽培面積を広げたり、単位面積当たりの収量を高め、供給量を高めることができます。
実際、2026/27年度のブラジルは記録的な豊作になるとの予測が相次いでいます。
ブラジルだけではありません。世界各地で耐病性や収量性に優れた改良品種への更新が進み、ベトナムなどの主要生産国でも供給力は高まっています。そのため2026/27年度の世界のコーヒー市場は、これまでの供給不足から一転し、「供給超過」になるという見方が強まっています。
もちろん、この見通しがそのまま実現するとは限りません。
現在はエルニーニョが強まっており、ブラジルをはじめとする主要生産地で過度な乾燥や高温、降雨時期の変化が起きれば、開花や結実に影響し、今後の生産量が予想を下回る可能性は残されています。
もう一方の「需要」についても「世界的に右肩上がりだから価格が上昇している」と単純には説明できません。
インドネシアの需要は旺盛であるものの、中国など消費の伸びを牽引してきた新興市場の伸びは鈍化し、一大消費国である米国の消費量も停滞気味で、世界全体の需要は予想されていたほど加速度的に増加していません。中長期的な需給だけを見れば、本来はコーヒー相場が下落しても不思議ではない状況にあるのです。
2026年初めには、ブラジルの増産などによる世界的な供給超過を理由として、ニューヨーク市場のアラビカが200セント前後、あるいはそれを下回る水準まで下落する可能性を指摘する市場関係者もいました。
ところが実際には、相場は300セントを超える水準にとどまっています。
理由の一つに、
「これから生産されるコーヒーの量」と、「いま市場ですぐに買えるコーヒーの量」の違いがあります。
高値が続いたこの数年間、ロースターや輸入業者は、高価な生豆を大量に在庫することを避け、必要最低限の在庫で運営してきました。そのため、今後の豊作が予想されている一方で、消費国やICE認証倉庫などに存在する現物在庫は依然として少ない状態にあります。
価格が下がった局面では、それまで購入を先送りしていたロースターなどによる在庫確保の買いも入り、これが実需面から相場を支えています。
そして、これらの実需要因を上回るほどの大きな要素が残っています。
投機マネーの存在です。
コーヒーの先物市場には、生産者や輸出業者、ロースターなどの実需だけでなく、価格変動から利益を得ることを目的とした資金が流入してきます。コーヒーの取引量に対して投機マネーの量は巨大で、需給のバランスだけでは説明のつかない値動きをすることもあるのです。マネーゲームにさらされるのは実需側としては面白いものではありませんが、先物市場という仕組みのなかで避けることのできない要素でもあります。
まとめると、
・将来的な供給は増える見込みである一方、足元の現物在庫は少ない。
・そこにロースターによる在庫確保、天候リスクへの警戒、さらに投機資金の動きも加わり、現在の高値圏が形成されている。
・「世界的にコーヒーが不足している」「需要が右肩上がり」という単純な構図で高値が形成されているわけではない。
ということです。
消費者目線で考えてみると、これから相場の下落が始まったとしてもロースターの手元には高値で仕入れた原料がしばらく残るため、店頭のコーヒー価格はすぐに下がらないでしょう。当面は、原料高の影響を受け、高い価格水準が続くことが予想されます。
4−2.相場の変動はスペシャルティコーヒーにどう影響するのか
相場が下がれば、私たちが扱うスペシャルティコーヒーの価格も同じように下がるのでしょうか。
ここで、ニューヨーク市場とスペシャルティコーヒーの価格の関係について整理しておきたいと思います。
ニューヨーク市場の価格は、アラビカコーヒーを国際的に取引する際の重要な指標です。一般的なコマーシャルコーヒーでは、この相場を基準として取引価格が決められます。
一方、スペシャルティコーヒーは本来、その時々の相場だけではなく、コーヒーそのものの「品質」を評価して価格を決めていくものです。同じ1kgのコーヒーでも、どこで、誰が、どのような品種を栽培し、どのように収穫し、精製し、乾燥させ、最終的にどのような「品質」になったのかによって、その価値は大きく異なります。
だからこそスペシャルティコーヒーでは、単に相場に一定額を上乗せするのではなく、実際の品質を評価し、その品質をつくるために必要な生産コストも考慮しながら、生産者と取引価格を決めていくことが大切です。
ただし、スペシャルティコーヒーの価格が国際相場から完全に独立しているわけではありません。実際には、相場が上昇すれば、スペシャルティコーヒーの取引価格も上昇します。
たとえば、一般的なコーヒーが1ポンド150セントで取引されているときに、高品質なスペシャルティコーヒーを250セントで販売していたとします。ところが相場が上昇し、一般的なコーヒーでも250セント、300セントで販売できるようになれば、生産者は高品質なコーヒーを以前と同じ250セントで販売することに抵抗感が生まれるでしょう。
「一般的なコーヒーでも300セントで売れるのだから、より手間をかけてつくった品質の高いコーヒーには、それに見合ったより高い価格を払ってほしい」
そう考えるのではないでしょうか。
このように、ここ数年のスペシャルティコーヒーの生豆価格の上昇において、国際相場の高騰は大きな要因となっていることは間違いありません。
4−3.生産コストも上昇している
もう1つスペシャルティコーヒーの価格上昇に影響を与えているのが、生産コストそのものの上昇です。
人件費や肥料、農薬、運搬費、設備費など、コーヒーを生産するために必要なコストは、この数年間で大きく上昇しています。
ちょうどこの記事の執筆中に当社生豆バイヤーが南米(ペルー・コロンビア)出張に行くタイミングでしたので、「生産コストの上昇状況」について生産者に直接聞いてきてもらいました。
ヒアリングしたのはペルー「フェスパ農園」のウィルダー・ガルシア氏。堀口珈琲とは10年以上の付き合いになる生産者です。
まず、一般的なコーヒーの生産コストの内訳をざっくり聞いてみると、
人件費:60‐70%
肥料 :15‐20%
殺菌剤: 5‐10%
という感じでした。
「人件費の割合が意外と高いんだな」という印象でしょうか。
これは収穫時期に雇う“ピッカー”の人件費です。一定規模以上の農地を所有する生産者は、ピッカーと呼ばれる収穫作業員を季節限定でたくさん雇い収穫作業を進めます。
そのピッカー人件費のコスト上昇率についてヒアリングしたところ、
「フェスパ農園」が位置するペルー・カハマルカエリアでは
10年前は一人当たり2-3ドル/日であったのに対し、
5年前は9-10ドル/日、
そして今は20ドル/日まで上昇しているそうです。
つまり、5年前と比較して約2倍、10年前と比較すると約10倍。
生産コストの6〜7割を占める人件費がこの高い上昇率です。
人件費に次いで高いパーセンテージを占める「肥料代」も10年前 は20ドル/50kgだったに対し、4年前には国際情勢の悪化による世界的な肥料高と為替の影響で 63ドルまで高騰、今は45ドルまで下がりつつも高止まりしている状況とのことでした。
ウィルダー氏によると、現地の一般的な生産コストは、
5年前と比較して約2〜3倍、
10年前と比較すると約5〜6倍、
という上昇具合だそうです。
続いてコロンビアの名産地ナリーニョの生産組合でも同様のヒアリングを行いましたが、生産コストの内訳とそれぞれのコスト上昇率は概ね同じような値を示していました。
とりわけ高品質なスペシャルティコーヒーを生産するためには、完熟したチェリーを選んで収穫したり、精製や乾燥を細かく管理したり、欠点豆を取り除いたりする必要があり、一般的なコーヒー以上の手間とコストがかかります。
そのため、仮に今後ニューヨーク市場の相場が200セントを割るレベルまで下落したとしても、スペシャルティコーヒーの価格がそのまま5年前の水準まで戻るとは考えにくいでしょう。
もう一つ重要なのが「量」と「質」の問題です。
世界全体で見れば、ブラジルをはじめとする生産国の供給力は高まり、コーヒーそのものは供給過多になる可能性があります。
しかし、コーヒーの供給量が増えることと、私たちが求めている高品質なコーヒーが増えることは同義ではありません。
高い収量や耐病性を重視した品種への転換が進み、生産効率が高まることで世界のコーヒー生産量は増えたとしても、伝統的な品種や、その土地ならではの風味を持った高品質なコーヒーの生産量が同じように増えるわけではありません。
むしろ、「生産量+ある程度の品質」を重視することで「非効率」と捉えられてしまいがちな「高品質」の生産は減少していくでしょう。
高い品質のコーヒーを安定的に生産し続けてもらうことは、これからますます難しくなっていくはずです。
4−4.相場に対応しつつ、相場に振り回されない
こうした状況のなかで、スペシャルティコーヒーを扱うロースターはどのように買付をしていくべきなのでしょうか。
まず大切なのは、目の前にあるコーヒーの「品質」を見ることです。
相場が300セントだから高く買う。
相場が200セントに下がったから安く買う。
そうした判断だけでは、本来スペシャルティコーヒーが目指してきた取引にはなりません。
私たちが見るべきなのは、そのコーヒーにどれだけの品質があるのか。
そして、その品質を、翌年も、その先も継続して生産してもらうために、どれだけの価格が必要なのかということです。
もちろん、国際相場を無視することはできません。
相場が高騰すれば、生産者が他の市場で販売できる価格も上昇します。反対に相場が大きく下落すれば、市場全体の価格水準も変わります。相場の動きを理解し、それに応じて取引価格を調整することは必要です。しかしそれは「相場に振り回される」こととは違います。
スペシャルティコーヒーの買付で中心に置くべきは、あくまで品質です。
その品質を生み出すためにどのような仕事が行われているのか。
生産者にはどの程度のコストがかかっているのか。
現在の価格で、その生産を継続することができるのか。
そうしたことを生産者と対話しながら考え、価格を決めていく必要があります。
相場が上がったときも、下がったときも、まず品質を見る。
そして相場の変動を理解しながら、生産者と話し合い、その品質にふさわしい価格を考える。
相場に対応することは必要ですが、相場を買付のスタート地点にしない。
それが、これからのスペシャルティコーヒーロースターにとって、より重要になっていくでしょう。
世界でコーヒーが足りるかどうかだけを考えるのではなく、
「自分たちが求める品質のコーヒーを、これからもつくり続けてもらうためにはどうすればよいのか」
そこから逆算して買付を考えることが、スペシャルティコーヒーに携わる私たちの役割であると考えています。
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さいごに
堀口珈琲のスペシャルティブレンドは、毎日気軽に飲んでいただきたい「定番」でありながら、味わいについては決して妥協しないコーヒーです。
そのおいしさをつくるために、高品質なコーヒーを生み出す素晴らしい生産者がいて、その品質をケアしながら流通に携わる人たちがいて、私たちも一つひとつの素材を焙煎し、配合を調整し、日々品質を確かめながらブレンドをつくっています。
相場や生産コストが上昇する中で、これまでと同じ価格を維持することが難しくなり、2026年8月、定番ブレンドの価格を改定しました。
私たちが大切にしたいのは、価格を抑えるためにブレンドの品質を落とすことではなく、特別なおいしさのブレンドをつくり続けることです。高品質なコーヒーをつくる生産者たちに敬意をもって、堀口珈琲らしいブレンドのおいしさをつくり続けたいと考えています。
今回の特集が、いつものブレンドの背景に少しだけ思いを巡らせるきっかけになれば嬉しく思います。
スペシャルティブレンド 飲み比べセット
内容
・グァテマラ「サンタカタリーナ農園」フルシティロースト 100g
・#5 SMOOTH&CHOCOLATY フルシティロースト 100g
・#1 BRIGHT&SILKY ハイロースト 100g
計300g
販売価格:3,450 円(税込3,726 円)
販売期間:2026年9月2日(水)〜9月15日(火) AM8:00の期間限定

