TOP > 飲んで学べる スペシャルティコーヒー -風味を紐解く 基礎編-
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今回のテーマは「風味を紐解く」
この記事にたどり着いたということは、なんとなくでもコーヒーについて興味がある方のはずです。きっとおいしいコーヒーを求めている方でしょう。わざわざスペシャルティコーヒー専門店の記事に目を通していただいているのですから。
なんとなく好きでもう少し知りたいけどそこで立ち止まってしまっている。
もっとおいしく楽しみたい気もするけど何をどうしていいかよくわからない。
コーヒーに限ったことではなく、なんらかの嗜好品に興味をもち始めた頃にそんな自分がいるはずです。
スペシャルティコーヒーのように、
コーヒー生豆の産地に関する話題に始まって、専門用語や知名・人の名前が飛び交い、焙煎の話が出てきて、抽出方法は云々…、次から次へと話が広がっていくと頭はスイッチオフモード、「ギブアップ、もうついていけません」になってしまう人が続出するでしょう。
そんな情報をこれでもかと発信し続けているのがいつもの堀口珈琲なわけですが、少し反省して今回の「飲んで学べる」では “スペシャルティコーヒーを味わう”ことに集中します。
知識を身につけることがスペシャルティコーヒーのおいしさ・楽しさを広げてくれることは間違いありません。ただそこにはインプットする労力が伴います。堀口珈琲のスタッフのようにインプットも楽しさという人も多いと思いますが、苦労と感じる方もいるでしょう。
一方で、“味わう”についてはコーヒー好き全員が共有できる直接的な楽しみです。
今回の「飲んで学べる」を通過することで、スペシャルティコーヒーを口にするときの “おいしさの解像度“は上がり、「なんとなくおいしい」が 「はっきりとおいしい」「こんなところがおいしい」に変わっていくはずです。
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4種類のスペシャルティコーヒーで“味わう”を深める
今回は風味の要素をバランスよく感じとりやすいシティローストのコーヒーを4つ用意しました。
・ホンジュラス 「エル・グルーポ」
・コスタリカ 「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」
・ケニア 「カムワンギファクトリー」
・インドネシア 「マンデリン "オナンガンジャン"」
各100g飲み比べセットも用意しています。
販売価格:4,125 円(税込4,455 円)
※ご好評につき完売しました。各商品、単品での販売は継続して行いますのでぜひお買い求めください。
【ステップ1】
クリーンを確認する
まずはじめに、スペシャルティコーヒーらしさの前提となる風味条件「クリーン」を確認します。
クリーン???
難しい言葉が出てきた!と身構えたかもしれませんが安心してください。
“変な味がしない”“香りや口あたり・舌触りに違和感がない”と言い換えれば怖くありません。
堀口珈琲のコーヒーを飲み慣れている方であれば、あまり意識してこなかったとしても、これまでの経験を通して無意識的に理解できていることでもあります。
最近飲み始めた方も意識的にテイスティング経験を積めば、すぐに身につくことなので大丈夫です。“変な味がしない”“香りや口あたり・舌触りに違和感がない”ということを意識しながら堀口珈琲を飲み続けていただくことが近道です。

前置きはこれくらいにして、
実際にテイスティングしクリーンを確認していきましょう。
コスタリカ「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」を用意してください。
作りの良いきれいなコーヒーが多いコスタリカの中でも、特にきれいな仕上がりのコーヒーです。家族経営の生産者で、現在中心的な役割を果たしているジョイスが数年前に横浜ロースタリーを見学しに来てくれた際、「ここまでしっかり扱ってくれるロースターを初めてみた。私たちの精度ももっと上げていかないといけない。」と決意を新たにしてくれたのが品質に表れています。
それではレシピを確認して抽出してください。
テイスティングに使うカップを用意するのを忘れずに。
マグカップでも良いですが少し大きすぎるので、あまり飲み口の分厚くないコーヒーカップやデミタスがおすすめです。

【抽出のコツ】
注ぎ始めはじっくり焦らず、少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
準備できましたでしょうか。
それでは“クリーン”を捉えるテイスティングを行っていきます。
・香り
まずコーヒーに鼻を近づけて変な臭いがしないか確認します。
カビ臭や薬品臭はありませんね。スペシャルティコーヒーはもちろん普通のコーヒーでも基本的には取り除かれているのでないはずです。強烈であればすぐにわかります。
次に確認するのはナッツ臭や穀物臭です。ナッツと聞くとポジティブな印象を抱くかもしれませんが、古くなったピーナッツのような心地よくない香りでコーヒーの香りをネガティブな方向に導いてしまいます。
このコーヒーからは感じられません。
良い香りはしますが、今回は“クリーンかどうか”を確認するテイスティングなので、もったいないですがスキップします。
・酸味
では口に含んでいきましょう。
最初に意識するのは多くの人が苦手と感じている酸味です。
お酢のような刺激的な鋭い酸味があるか確認しましょう。ありませんね。爽やかな酸味です。
・苦み
次に苦味に意識を向けて二口目を飲みます。
そこまで深い焙煎度ではないので量は多くないものの感じられるはずです。注目するのは舌を刺すような刺激的な苦味がないかです。料理をする際にお焦げではなく焦がしてしまった時に感じる刺激的な苦みを想像すれば良いでしょう。
ここにはありません。
・質感(テクスチャー)
ひと呼吸おいて三口目。
口に入ってくる時=口あたり、口に含んでいる時の舌触り、飲み下すときの喉越し。
ざらつきなど、ひっかかりがあるように感じなければクリーンな質感です。
もう一口(四口目)。ちょっと行儀悪いかもしれませんが、今度はクチュクチュうがいをするように液体を口の中で動かしてみましょう。歯茎や舌がキュッと強く締め付けられるような感覚はありますでしょうか?ないと思います。
渋みがこの締め付けられる感覚をもたらしますが、コーヒーにおいて渋みは酸味の質を低下させるネガティブな要素です。
“甘み”以外のコーヒーの風味を構成する要素の4つ、香り・酸味・苦み・質感(テクスチャー)、これらの中に違和感がある、ネガティブに感じる点がある場合、そのコーヒーはクリーンとは言えません。
スペシャルティコーヒーはこの「クリーン」が担保されていることが前提条件のコーヒーです。
「おいしさを阻害する要素が取り除かれているからこそ、特別なおいしさを楽しむことのできる」これがスペシャルティコーヒーの本来の姿です。
さて、なんとなくは“クリーン”を実感できましたでしょうか。
色々なコーヒーを飲んでいく際にクリーンを確認する四口を行い経験を重ねていけば理解は深まっていきますので、しばらくの間は意識することをおすすめします。自然とスペシャルティコーヒーを味わう解像度=テイスティング能力も向上し、もっとおいしく味わうことができるようになるはずです。
【ステップ2】
おいしさをテイスティングする
“クリーン”の確認ができたら今度は“おいしさ”を構成する要素を1つ1つ確認しながらテイスティング、風味を紐解いていきます。
テイスティング対象は、再びコスタリカ「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」。
仕上がりが素晴らしいのでテイスティングを学ぶのにピッタリのコーヒーです。
レシピを再確認していれ終わったら、さっそくテイスティングしていきましょう。
・香り
鼻を近づけると甘い香りが漂ってきます。
よーく捉えてみると白い小花のような香りもいるかもしれません。
違和感のある香りは全くなく、とてもきれいなコーヒーであることが伺えます。
・酸味
刺激的でなく、ひっかかりもなく、爽やかな酸味が適度な量あり柔らかく感じられます。
きれいな酸味と表現して良いでしょう。
・苦み
柔らかい心地よい苦みがほんのりよりは少し多い程度に感じられます。
きれいな苦みです。
・質感(テクスチャー)
ざらつきはなく、スルっと口に入ってきて口の中に広がります。
サラサラとした液体ではなく少し量感を感じ、口中で動かすと滑らかさが感じられ、とても心地よい舌触りです。キュッとなる渋みはありません。
飲み下すまでスムースできめ細やかなテクスチャーです。
・ニュアンス(香り+味+質感)
小花ような華やかな香りと柔らかな酸味から黄色がかった柑橘のニュアンスを感じとれます。温度が落ち着いてくるとテクスチャーに量感が加わり、甘さと相まって、白桃のニュアンスへと変化していきます。
・総評
それぞれの風味の要素において程よくボリュームが詰まっているため、しっかりしているのにスッと飲めてしまう優れたバランス。柑橘から白桃(核果)まで複数のニュアンスがきれいさの中に感じられます。きれいで、軽やか、華やかな、エレガントコーヒー。
少し難しかったでしょうか。いきなり全てを把握できなくても大丈夫です。改めて風味の要素を分解して味わってみることでしっかりとコーヒーを味わっていれば十分です。そこに発見があったとしたらさらに素晴らしいですね。
そして「なんとなくおいしい」が「こんな風においしい」「ここが好き」というように捉えられ始めるとスペシャルティコーヒーは加速度的においしく・楽しくなります。
【ステップ3】
異なるおいしさをテイスティングする
コスタリカ「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」を題材に、
・“クリーン”を意識したテイスティング
・おいしさの要素を分解したテイスティング
を行いました。
次は3つのコーヒーのテイスティングを通して異なるおいしさを捉えていきます。
1. ホンジュラス「エル・グルーポ ブルボン」
2. ケニア「カムワンギファクトリー」
3. インドネシア「マンデリン“オナンガンジャン”」
1.ホンジュラス「エル・グルーポ ブルボン」
コスタリカ「【グラニートス】オルティス2000 カトゥアイ」と同じ中米のコーヒーです。共通する部分がありつつもずいぶんと異なる風味ですのでテイスティングしがいがあります。トライしてみましょう。

【抽出のコツ】
注ぎ始めはじっくり焦らず、少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
・香り
鼻を近づけると甘い香りが漂ってきます。しっかり甘い印象です。
甘さの奥にハーバルな香りもかすかに感じられます。
違和感はやはりありません。
・酸味
複数種類の酸が感じられます。
オルティスに感じた爽やかな酸に加え、より丸みのある酸が多く感じられます。そして奥の方にかすかにお酢の酸も潜んでいます。刺激ではなく奥行きを与える程度の量でポジティブに働いています。
・苦み
柔らかい心地よい苦みが感じられます。
オルティスと比較すると少し多く感じられるでしょう。
・質感(テクスチャー)
口あたりからしっかりとテクスチャーを感じ、濃度が高い印象を与えます。
口中でも濃縮した液体を感じます。
ざらつきやひっかかりはないため、粘性の高い滑らかな液体が口の中を巡る感覚です。
・ニュアンス(香り+味+質感)
複数の酸質と香りが複合して、緑・オレンジ・赤みがかった、まで複数の柑橘のニュアンスが感じられます。
温度の変化に従って、→チェリー →黒系果実 →カカオのニュアンスも現れてきます。
・総評
爽やかさから始まったと思ったら、濃度と滑らかさが感じられます。複数の果実が現れ、カカオも現れ、色々な主張がありながらもあくまでマイルドにまとまっています。余韻にはフローラルな印象も顔を出します。あまり出会わない不思議なコーヒー。
2. ケニア「カムワンギファクトリー」
次はフルーティーコーヒーの代表的生産国ケニアです。大好きな人も多いのではないでしょうか。しっかりとテイスティングして好きを深めていきましょう。

【抽出のコツ】
注ぎ始めはじっくり焦らず、少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
・香り
鼻を近づけると果実の香りがしっかりと感じられます。しっかりと甘い香りもします。
もちろん違和感のある香りはありません。
・酸味
爽やかな酸がしっかりと存在しています。ただ、他の味の要素も強いので「酸っぱ!」とはなりません。量が多くても刺激的にならずしっかりと味わいのバランスの中におさまっています。柔らかさも感じさせる酸です。
・苦み
しっかりあります。ただ、酸と同様に他の要素の量が多いためバランスよくおさまっています。量は多くとも刺激的でなく柔らかな質です。風味全体の厚みに寄与しています。
・質感(テクスチャー)
丸みのある口あたりからはじまり、口中に広がると滑らかで粘性のある舌触りがしっかりと感じられます。喉越しまで濃縮したテクスチャーです。
・ニュアンス(香り+味+質感)
黄色やオレンジの柑橘をベースに、明るい酸と華やかな香り・甘さが作用して赤系果実や黒系果実のニュアンスがしっかりと感じられます。
・総評
香り・味・質感、風味を構成するどの要素も量が多く、力強さが溢れているコーヒー。一方で、きれいさは損なわれておらず引っかかりなくきれいに飲めてしまいます。層をなしている果実感はわかりやすく主張的なおいしさをもたらしながら、複雑さ・奥深さももたらしています。
※お手元に「ギチャサイニファクトリー」がある方(〜3/18 AM8:00までにご注文の方)はこちらをクリックして風味解説をご参照ください。
・香り
鼻を近づけると果実の香りがしっかりと感じられます。しっかりと甘い香りもします。
もちろん違和感のある香りはありません。
・酸味
爽やかな酸がしっかりと存在しています。ただ、他の味の要素も強いので「酸っぱ!」とはなりません。量が多くても刺激的にならずしっかりと味わいのバランスの中におさまっています。柔らかさも感じさせる酸です。
・苦み
しっかりあります。ただ、酸と同様に他の要素の量が多いためバランスよくおさまっています。量は多くとも刺激的でなく柔らかな質です。風味全体の厚みに寄与しています。
・質感(テクスチャー)
酸が高いことで口あたりではサラッと軽やかであると錯覚しますが、口中に入ると一気にどっしりとした量と粘性を感じます。喉越しまで濃縮したテクスチャーです。
・ニュアンス(香り+味+質感)
しっかりとした明るい酸を中心に黄色からオレンジの柑橘のニュアンスがベースです。そこに赤系果実がしっかりと加わり、黒系果実のニュアンスもほんのりと感じられます。
・総評
香り・味・質感、風味を構成するどの要素も量が多く、力強さが溢れているコーヒー。一方で、きれいさは損なわれておらず引っかかりなくきれいに飲めてしまいます。層をなしている果実感はわかりやすく主張的なおいしさをもたらしながら、複雑さ・奥深さももたらしています。
3. インドネシア「マンデリン“オナンガンジャン”」
最後はマンデリンです。香り・味・質感、どの要素にも特徴が詰まりまくっている産地ですね。その反面、複雑さを分解して言葉にするのは難解です。おいしさを楽しみつつもしっかりとテイスティングしていきましょう。

【抽出のコツ】
注ぎ始めはじっくり焦らず、少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを早くしていきます。
・香り
鼻を近づけるととても甘い香りを感じます。ミルクキャラメルのような印象もあるかもしれません。奥にハーバルも感じられるかもしれません。飲み下して鼻に抜ける香り(戻り香)ではハーバルがよりしっかりと感じられます。
・酸味
ケニアと同様に爽やかな酸がしっかりと存在しています。他の味の要素も強いので「酸っぱ!」とはならないのもケニアと同じで、刺激的ではありません。爽やかな酸と感じると思いますがハーバルな香りの作用が大きいでしょう。
・苦み
柔らかな苦みがしっかりありますが、他の要素の量も多いためバランスよくおさまっています。
・質感(テクスチャー)
きめ細やか。量感があって、滑らかなですが、さらにきめ細やかさが突出しているため、非常に心地よく感じさせてくれます。口あたりから舌触り、喉越しまでテクスチャーを感じましょう。
・ニュアンス(香り+味+質感)
果実のニュアンスは柑橘がベースですが、甘さや香りが作用してマンゴーなどの南国フルーツも感じられます。黒系果実も少しいます。
・総評
特徴のある甘い香り・口にするときめ細かなテクスチャー・複数の果実のニュアンス・ハーバルな香りとしっかりとした酸がもたらす清涼感。味わう要素が盛りだくさんの複雑さ極まる素晴らしいコーヒーです。
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風味の要素を紐解く -要素その1-
4つのシングルオリジンのテイスティング、いかがでしたでしょうか。それぞれのおいしさをいつもと違った味わい方で堪能いただけたかと思います。“味わう”ことの解像度が上がってちょっと楽しくなってきた、なんて状態になっていたとしたらスペシャルティコーヒーの階段をだいぶ登ってしまっています。
「風味についてもう少し知りたいぞ」と興味も増してきたところでしょう。
ここからは、もう一歩踏み込んで風味の要素の1つに注目して紐解いていきます。
嫌われ者の要素
実は今回味わっていただいた4つのシングルオリジンは、コーヒーの風味要素の中でも嫌われがち第1位を解説するために選んだコーヒーたちです。
どの要素についてかピンときましたか?

正解は「酸味」です。
「酸味のないコーヒーはどれですか?」
店頭でお客様が発する質問リスト集を編纂するとしたら“頻出”の章の最上段に並びます。
裏を返すと「酸味」はお客様にとって最も関心の高い風味の要素と言えます。
今回はそんな酸味に注目して、
・酸味は悪者なのか?
・「スペシャルティコーヒーは酸味を楽しむもの」というたまに聞く言葉は本当なのか?
・そもそもコーヒーの風味にとって酸味はどんな役割を果たしているのか?
これらを紐解き風味の理解を深めていきます。
酸味は悪者なのか
テイスティングした4つのコーヒーの「酸味」いかがでしたか?
「え、酸味が元のテーマだったの?」と意外に思われているのではないでしょうか。
4つのコーヒーはいずれも「きつい」「すっぱい」という酸味に対して想像するネガティブな印象は感じられなかったでしょうから。
でも4つのコーヒーいずれにも酸味はしっかりと存在しています。強弱の2択で示すとしたら“強”です。
実は今回のテイスティングでは思いっきり強い酸味を楽しんでいたのです。
では、なぜコーヒーにおいて酸味は“嫌われ者”にされがちなのでしょうか。
理由は複数あると思われます。
一つ目は、そもそも日本の食文化が直接的に強い酸味を味わう傾向にないということです。日本の食文化はどちらかというと淡い味わいです。足し算をして全体的に強い味わいを作ることもなくはありませんが、どちらかといえば淡い方向性です。
酢の使い方でも単体で酸味を強調するのではなく、出汁や甘みと組み合わせてバランスをとる使い方が多いでしょう。
現代の食生活は変化しているものの、強い味わいをベースとしていないことから強い酸味に対する忌避感が自然と備わっているのでしょう。
もう一つは、現代の甘みへの偏重です。
スーパーの青果売場に行くと、強調されているのは「糖度」ばかりです。野菜ですらおいしさを表す指標として甘みが強調されているのを見かけます。甘みが重視され、酸味は忌避される傾向は日増しに強くなっている印象です。
本稿には直接関係ありませんが、硬いものが過度に嫌われ、柔らかい食感のものばかりになっていくことにも辟易とさせられます。
話を戻します。
では、おいしさにとって酸味はない方が良いのでしょうか?
もちろん答えはNoです。
酸味は味わいを構成する要素としてとても重要です。
甘さを追求した“糖度の高い”果物においてもです。
むしろ甘みが強いものほど酸味は必要で、甘さに対してある程度の酸味がないとぼやけた味わいになってしまいおいしくありません。
甘口ワインでも同様です。しっかりした甘みに釣り合った強い酸味があって成立するものです。
コーヒーも同様で、どんなコーヒーにとっても「おいしい」と感じるために酸味は必須です。
どういったバランスで酸味がいるかが重要なのです。
今回テイスティングしたコーヒーはどれも強い酸味のコーヒーばかりですが、他の要素とのバランスが釣り合っているため、しっかりとした味わいの“おいしい”コーヒーとして成立しています。
サードウェーブの隆盛による酸味への誤解の浸透
もう一つコーヒーの酸味が忌避される要因として考えられるのが、極端な浅煎りの流行です。
“サードウェーブ”という言葉が流行した2010年代以降、極端に焙煎度が浅く刺激的な酸味を伴うコーヒーが、一部のロースターの誤解により市場に優れたコーヒ―として紹介されました。
多くの人にとっては酸味が際立ちすぎているバランスの悪い味わいのコーヒーで、それを口にする機会が増えたことを意味します(正確に言うと渋みを伴うことで刺激がさらに増してしまっている強い酸味のコーヒー)。
この流行は結果として酸味嫌いの増加を促すことになったことは否定できないでしょう。
※おいしい浅煎りは存在しますので、浅煎り全体を否定するものではありません。
こうした背景や状況から、コーヒーやスペシャルティコーヒーにおいて酸味が“嫌われ者”にされてしまうのも致し方ありません。
押さえておきたい大事なポイントは、以下2点です。
✔ 酸味は飲食物全般において“おいしさ”を構成する重要な役割を担っている
✔ コーヒーにおいても酸味は「特徴」をもたらす大事な要素の一つだが、ポジティブな酸味だけではなく、飲み心地の悪さに繋がるネガティブな酸味もある
では、多くの人を“酸味嫌い”にしてしまうコーヒーの「ネガティブな酸味」とはどういうもので、なぜ発生してしまうのしょうか。
逆に、おいしさをもたらす「ポジティブな酸味」とはどういうものか、次の章で見ていきましょう。
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味わいの骨格を形成し「果実感」をもたらすもの
まずは「ネガティブな酸味」からみていきます。
【ネガティブな酸味1】お酢のような酸味
コーヒーの味わいにおける「ネガティブな酸味」としてまず【お酢のような酸味(酢酸)】があげられます。ほんの少量であれば味わいに奥行きや複雑さをもたらす可能性はあるものの、基本的に液体を飲みにくく心地悪いものにする酸味です。
香り・他のポジティブな酸味・甘み・苦み・質感、コーヒーの味わいを構成する基本要素のどれに対してもネガティブな作用を与え、その質を低下させてしまいます。
浅煎りから深煎りまで、どの焙煎度であろうと悪さをしてしまうのがこの酸味です。

この【お酢のような酸味(酢酸)】が発生する要因は主にコーヒーの栽培〜加工までの各工程に潜んでいます。具体的には収穫時のチェリーが過熟だった場合や、精製工程において発酵処理、水洗処理、乾燥に何かしらの不備・問題があった場合などです。
【お酢のような酸味(酢酸)】はスペシャルティコーヒーの前提である「クリーン」(=ネガティブな要素がない)を阻害します。優れた栽培環境やそれを取り巻く風習からもたらされる「個性」を覆い隠してしまう存在で、スペシャルティコーヒーにはあってはならないものです
【ネガティブな酸味2】渋みを伴うきつい酸味
もう一つ、コーヒーに強い酸味・刺激的な酸味といったネガティブをもたらす要因があります。前章でも少し触れた「渋み」です。
渋みは舌がキュッと収斂する感覚で「味覚」ではなく「触覚(皮膚感覚)」に分類されます。
この収斂感のある渋みが酸味に伴うと、きつい・飲み心地の悪い「ネガティブな酸味」となってしまいます。
コーヒーにおいて「渋み」が発生するのは主に焙煎工程です。焙煎の前半における水分除去不足が「渋み」の要因となるのですが、ライトローストやシナモンローストといった極端に浅い焙煎度のコーヒーにおいては「渋み」の主因となる成分がまだ多く残るため、どうしても渋みを伴った強い酸味・刺激的な酸味のコーヒーに仕上がります。

「渋み」も�‘瑛諭▲好撻轡礇襯謄�コーヒーの前提である「クリーン」(=ネガティブな要素がない)を阻害し、優れた栽培環境やそれを取り巻く風習からもたらされる「個性」を覆い隠してしまう存在で、スペシャルティコーヒーにはあってはならないものです。
しかしながら、米国発サードウェーブの隆盛により“直接的な酸”、“刺激的な酸”を楽しむのがスペシャルティコーヒーという大きな誤解が広まり、その影響を受けてから日本のスペシャルティコーヒーシーンでは極浅煎りの「渋み」をともなったきつい酸のコーヒーが一般的になりつつあります。
酸味が多ければポジティブもネガティブもいっしょくたに「特徴」とする誤解も広がっています。【お酢のような酸味(酢酸)】を伴ったコーヒーですら、「特徴」と評価しスペシャルティとして流通しているケースが散見されるようになってしまいました。
スペシャルティコーヒー市場に多く流通している「ネガティブな酸味」のコーヒーを体験された方が、「自分は酸味が苦手」だと“思い込んで”しまうのも無理ありません。
しかしながら、ネガティブな酸味のコーヒーを警戒するあまり、ポジティブな酸味を備えたおいしいコーヒーを避けて通るような楽しみ方になってしまうのはもったいないです。
ここからは「ポジティブな酸味」に目を向けていきましょう。
「ポジティブな酸味」とは、まさしく今回飲み比べていただいた4種類のコーヒーに備わっていたような酸味です。
2章の内容も振り返りながら「ポジティブな酸味」がコーヒーの風味の中でどのような役割を担い、どのようにおいしさをもたらしてくれているのか、少し掘り下げてみます。
【酸味の役割1】味の輪郭を形成する
酸味の役割の重要な一つが「味の輪郭を形成する」です。
スペシャルティコーヒーに限らず、酸味はコーヒーの風味の骨格を形作る大切な要素です。

コーヒーの“味”を5味(酸/苦/甘/旨/塩)に分解して考えてみるとどうでしょうか。しっかりと感じられるのは「酸味」と「苦味」ですね(「甘味」については直接的な甘味も少量ありますが、香りと質感の相互作用からくる「甘さ」が主体です)。
焙煎度の浅い・深いによって「酸味」と「苦味」のバランスは変わりますが、浅煎りでも深煎りでもこの2つがコーヒーの“味”の輪郭を形成しています。
【酸味の役割2】
香りや質感と複合して特徴的な果実感をもたらす
酸味は「味の輪郭」を形成するだけでなく、スペシャルティコーヒーらしい特徴的な風味である「果実感」をもたらしてくれる重要な要素です。とは言っても、酸味単体でもたらされる訳ではありません。酸味が、香りをはじめとする他の要素と複合的に作用することで、コーヒーに特有の「果実感」をもたらしてくれます。
2章で飲み比べた4つのコーヒーの風味を「酸味」と「果実感」に注目して振り返ってみましょう。

・きれいで心地のよい「柑橘のニュアンス」
いずれのコーヒーにおいても、お酢のようなきつい酸味や、舌がキュっと収斂するような刺激的な酸味はありませんでしたね。ネガティブな酸味がなく、きれいで心地よい酸味が感じられるコーヒー達でした。その上で、共通して「柑橘のニュアンス」を感じとることができました。きれいで心地のよい「柑橘のニュアンス」はスペシャルティコーヒーの基本とも言うべき風味です。
・「柑橘のニュアンス」のバリエーション
共通して感じられる「柑橘のニュアンス」にもバリエーションがありましたね。例えばホンジュラス「エル・グルーポ」はミカンやオレンジを思わせる一方で、コスタリカ「【オルティス】グラニートス」はそれらに加えてレモンを想起させる黄色い柑橘のニュアンスが感じられました。
酸の量が豊かで明瞭な場合はレモン、酸の量がほどよく甘みも伴うとミカンやオレンジ、ほろ苦さが伴うとグレープフルーツ、ほのかにベリーが伴うとピンクグレープフルーツ、といった感じで酸味の量と質、さらにはその他の要素との複合で「柑橘のニュアンス」はより具体的に表現することができます。
・果実のような心地よい酸
柑橘以外の「果実のニュアンス」が感じられるコーヒーもありましたね。ケニアのコーヒーではラズベリーなどを思わせる華やかでジューシーな「赤系果実」の酸が感じられました。これは充実した量の酸味が華やかな香りと作用することで感じることができる果実のニュアンスです。焙煎度の深まりと共に甘みや複雑さが高まると「黒系果実」のニュアンスも帯びてきます。
また、インドネシア「マンデリン“オナンガンジャン”」は「南国フルーツ」と表現しました。明瞭な酸味に、豊かな甘みや華やかな香りが加わり、それらが複合的に作用することで南国フルーツのようなニュアンスを帯びることがあります。
✔ 「ネガティブな酸味」とは【お酢のような酸味】と【渋みを伴うきつい酸味】でスペシャルティコーヒーにあってはならない
✔ 「ポジティブな酸味」はスペシャルティコーヒーの味の輪郭を形成し、香りや質感と複合して特徴的な果実感をもたらす
✔ スペシャルティコーヒーにおける基本の酸は「柑橘」。酸の量や他の要素との複合でさまざまな「柑橘のニュアンス」を帯びる
✔ 酸味が香りや甘さ、質感と複合的に作用して「赤系・黒系果実」や「南国フルーツ」といった果実のニュアンスが感じられるコーヒーもある
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おわりに
今回の「飲んで学べる」は、まず“スペシャルティコーヒーを味わう”ことに集中し、4つのコーヒーの風味をいつも以上にじっくりと味わいました。
実際に“風味を紐解く” を体験していただいた上で、3章以降でコーヒーの風味を構成する重要な要素である「酸味」に注目して、知識の面から風味を紐解いてきました。
この「飲んで学べる」体験を踏まえたうえで、いつものコーヒーの“風味”を、いつも以上に楽しんでみてください。
堀口珈琲においては上述したような「ネガティブな酸味」は排除しているので、過度に酸味を警戒せずに安心してコーヒーを選んでいただいてOKです。
本記事ではあまり言及できませんでしたが、焙煎度に応じた酸味の強弱があります。今回はシティローストで揃えていますが、焙煎度の浅いハイローストは酸味をより感じやすくなり、フルシティ、フレンチ、イタリアンと焙煎度が深まるにつれ、酸味は穏やかになり苦味・甘味がしっかりと感じられるようになります。
堀口珈琲以外でコーヒーを楽しむ場合、酸味に対する評価基準はロースターによって異なります。そんな時はぜひ今回の「飲んで学べる」で体験した4つのコーヒーの酸味を基準においてみてください。
「きついな」「すっぱいな」と感じたら、それはネガティブな酸味かもしれません。そんな時は酸味自体を嫌いになるのではなく、「この酸味は好きじゃない」と言いましょう。おいしいコーヒーに巡り合えたら自信を持って「この酸味は柑橘のニュアンスがきれいだね」みたいに言っちゃいましょう。
シリーズ企画「飲んで学べるスペシャルティコーヒー」の【風味を紐解く 基礎編】、今回も長文にお付き合いくださりありがとうございました。