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スペシャルティのメキシコ、始まります
今回の特集は堀口珈琲35年の歴史において“初”販売となるメキシコです。
初めて取り扱う生産国のコーヒーをご紹介するのはいつ以来でしょうか。ベテランスタッフに聞いても記憶が曖昧なほど、とにかく久しぶりです。
「長年生豆の買い付けに携わって数え切れないほど現地にも行ったけど、まだこんな”新しい産地”が残っていたなんて。」
生豆バイヤーはそう語ります。
といっても今回扱う“オアハカ”という地域はコーヒー関係者であれば誰でも知っている州の名称です。生豆バイヤーの言葉を翻訳すると「オアハカの奥地を掘り下げていくと、すごいコーヒーにたどり着けそう」ということでしょう。
ここからどの様に発展していけるのか「ワクワクしてる」とも。どうやら開拓者魂に火がついているようです。


そして火がついてしまったのはロースターやブレンド担当も同じようです。
届いた生豆から備えるキャラクターをどのように焙煎して取り出そうか。ブレンドしたときの他の素材との相性はどうだろう。
新しい風味を前に目を輝かせています。
その結果、フライング気味にお披露目したのが年末年始の特別ブレンド「ニューイヤー」。シングルオリジンの販売を前に、特別ブレンドの素材として抜擢していました。その風味からメキシコに期待を膨らませていた方も多いかもしれませんね。
お待たせしました。
堀口珈琲がお届けするスペシャルティのメキシコは、この特集から本格スタートです。
私たちはメキシココーヒーを通じて、スペシャルティコーヒーの新たな風味を提示していきます。
長年ご愛顧いただいている皆さまも、初めましての皆さまも、とにかくまずは味わってみてください。
そしてこの先の発展も一緒に楽しんでいきましょう。


本特集では、今回届いたメキシココーヒーがどんな味わいなのか、メキシコはどんな産地で、なぜ今になって堀口珈琲が扱うに至ったのか、解説していきます。
「滋味深い」「往年の喫茶」「伝統品種」「メキシコの格差」
そんなキーワードを頭の片隅に置いていただき、新しくもどこか懐かしい”スペシャルティ“な世界へ進んでいきましょう。
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メキシココーヒーの味わい
往年の喫茶ファンへ、スペシャルティネイティブへ
まずは肝心の商品紹介とその味わいです。
メキシココーヒーの風味傾向を解説した上で、今回2つの焙煎度でご用意した「ユクカフェ」の味わいと抽出のコツを紹介していきます。
1.メキシココーヒーの風味傾向
メキシコといえば、テキーラ、タコス、ルチャリブレ、お祭り、リゾート都市…などなどラテンの陽気で賑やかな印象がありますよね。そんな派手なイメージを思い浮かべながらコーヒーを飲んでみると、そのギャップにまずは驚きます。メキシココーヒーの風味は滋味深く、とても優しいのです。
特徴を一言でいえば、“ロー・アシッド”。
中米産のコーヒーを思わせるマイルドな味わいですが、他の生産国と異なるのは「酸の量が控えめ」という点です。あくまで「控えめ」で、「ない」わけではありません。
浅煎りでも深煎りでも、酸味はあらゆるコーヒーにおいて風味の骨格を担う重要な要素です。+スペシャルティコーヒーでは、香りや甘み、時には苦みや質感と相まって果実感に代表されるさまざまな個性をもたらします。柑橘のような、ベリーのような、フローラルな、チョコレートのような、などさまざまな表現を見かけますよね。
今回のコーヒーは、控えめでデリケート、柔らか。そんな淡さの中にじわりと感じられる特別な風味をお楽しみください。
用意したコーヒーはオアハカ州にあるユクヒティ村から届いたものです。風味傾向からシティとフルシティ2つの焙煎度で仕上げました。
それぞれの焙煎度でどんな風味が取り出されるのか見ていきましょう。
抽出のコツも合わせて紹介していきます。
2.シティローストの味わいと抽出レシピ
メキシコ「ユクカフェ」シティロースト 200g
販売価格:1,800円(税込1,944円)
【味わい】
やさしい口当たりから始まります。酸は穏やかで、シティローストのやわらかい苦みと程よい甘みがさらに優しく感じさせてくれます。コーヒーらしい香りに加え黄色い柑橘の果実があくまで優しく、刺激なくやってきます。
きめ細やかな舌ざわりとともに口中に広がると、優しい甘みに包まれます。
余韻にはブラウンシュガーのような甘みが感じられ、ほのかにフローラルな香りも纏いながらフィニッシュへ向かいます。
素材がもたらす「滋味深さ」がシティローストの調和した風味バランスによって良く表現されたデリケートな一杯です。
【推奨のレシピ】




【抽出時のポイント】
「濃すぎず、軽すぎず」バランスの良さを意識します。抽出開始から30秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして60秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを徐々に早くしていきます。
3.フルシティローストの味わいと抽出レシピ
メキシコ「ユクカフェ」フルシティロースト 200g
販売価格:1,800円(税込1,944円)
【味わい】
シティローストから一段階焙煎を深めると、シティローストで感じられたニュアンスを保持しながらも、厚みは増します。舌ざわりはよりなめらかに、そして量感を纏います。けれどもどっしりとしすぎることはなく“程よい”といった感覚です。
ミルクチョコレートやヘーゼルナッツを思わせる優しい甘みが広がり、アフターにかけて柑橘の香りがほのかに漂います。
フルシティってこんなに滑らかでやわらかなんだ、と感じさせてくれる、素材の柔らかさがローストと調和した心地よい一杯です。
【推奨のレシピ】




【抽出時のポイント】
シティローストよりも濃度感を出し、口当たりの良さを引き出すように意識します。抽出開始から35~40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、65秒程度を目安に抽出液のポタポタが線状になるように。その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースで。
「古き良き」と「新しさ」を備えたスペシャルティのメキシコ
「ユクカフェ」シティロースト、フルシティローストいかがでしたでしょうか。
やわらかさ、滋味深さ、でもしっかりと風味は存在する。薄いコーヒーではない。そんな味わいが感じられたのではないでしょうか。
きつい酸味はそこにはいませんので酸味が苦手と思っている人は安心して味わえたはずです。
そして、控えめな量の酸でも口当たりや広がっていく質感、甘み、穏やかな酸と香りが織りなす柑橘のニュアンスも楽しめましたね。スペシャルティコーヒーをたくさん味わってきた方にもしっかりと特徴・個性が淡さの中に感じられ、新鮮な感覚とともに満足感も得られたのではないでしょうか。


喫茶文化隆盛の時代に名産地として人気を博したハワイ・コナやブルーマウンテンはもともとの酸の量が少ないコーヒーで、基本的に浅煎りで楽しむべきものです(ハワイ現地では極深いりが結構あって驚きますが…)。そして酸が穏やかな浅煎りでありつつもきめ細やかでシルクのような舌触りや量感が感じられたことから高い評価を得られていたはずです。
気候変動の影響なのか生産方法の変化なのか要因は定かではありませんが、残念ながらどちらの産地にもそういったコーヒーは現在見あたりません。ハワイに関しては近年まで体験できましたが、残念ながらブルーマウンテンについては当社スタッフの古株でさえ体験する前に消失してしまいました(創業者の堀口俊英であれば体験しているかもしれないので今度聞いてみます)。
日本の喫茶文化の中心にいながら消えていってしまったコーヒーを違う形で、もしかしたらより洗練した形で提供できるかもしれない。そんな“古き良き”と“新しさ”を備えたコーヒーを“新しいメキシコ”“スペシャルティのメキシコ”には期待せずにいられません。
往年の喫茶ファンにも、スペシャルティネイティブの世代にもじっくりと召し上がっていただきたいと強く思います。そして、この感覚に共感いただける方が少しでもいらっしゃってくれたらとてもうれしいです。
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コーヒー産地としてのメキシコってどんな国?
さて、ここからはコーヒー産地としての「メキシコ」にフォーカスを当て、おいしさの背景を探っていきましょう。
最初にメキシコの位置関係を整理しておきます。


メキシコの北側はアメリカと国境を接しています。これはアメリカ大統領の発言で度々話題になるのでご存知ですね。
南側に目を向けると、国境を接しているのは皆さまおなじみ「グァテマラ」です。最も南に位置するチアパス州はグァテマラのウエウエテナンゴ県と隣接しています。ウエウエテナンゴは「サンタバルバラ」や「エル・インヘルト農園」のあるエリア、といえばピンとくるグァテマラファンの方もいらっしゃるかもしれませんね。
グァテマラとの国境付近、メキシコの南部に地図を拡大してみます。


メキシコのコーヒー生産のほとんどは南部で行われており、ベラクルス、オアハカ、チアパス、プエブラ、ゲレロの5州で生産の約94%を占めています。中でも私たちが取り扱い、今後発展の中心地となるのはチアパスとオアハカです。聞きなれない地名だと思いますが、今後たびたび出てくると思いますのでこれを機になんとなく覚えておいてください。今回紹介した「ユクカフェ」もオアハカのコーヒーです。
ちなみに、上地図には見切れていますが地図を右(東)側にスライドしていくとカリブ海に浮かぶ島国ジャマイカがあります。ジャマイカといえば2章でも触れたコーヒー「ブルーマウンテン」の産地ですね。
メキシコは質ではなく量の商売の産地


上の写真は首都メキシコシティの様子。近代的な街並みが広がっています。
もしかしたら意外に思われるかもしれませんが、メキシコは中米諸国との比較においては最も経済発展している国です。かつては農業中心の経済でしたが、アメリカに近いという地理的優位性や低い労働コストを背景に自動車産業や電子機器産業といった製造業が発達、特に北部のアメリカ国境付近や中部の首都メキシコシティ周辺では経済活動が盛んです。
産業としてのコーヒー生産に目を向けてみると、実は隣国グァテマラと比肩するコーヒー生産量があります。コスタリカと比較すると2倍以上の生産量です。
しかしながら、スペシャルティコーヒー専門店に並んでいる北中米のコーヒーはほとんどがグァテマラとコスタリカ、次いでホンジュラスといった感じで、メキシコ産は「見たことがない・飲んだことがない」という方が大多数だと思います。


ただ、意識せずともメキシココーヒーを口にしたことがある人は意外と多いはずです。というのもスーパーや量販店の棚に並んでいる安価なブレンドコーヒーの素材としてメキシココーヒーは使用されてきたからです。
スペシャルティではなく一般的なコーヒーを大量に供給するアラビカコーヒーの産地としては、ブラジル・コロンビア・ホンジュラスがまず挙げられますが、次いでメキシコもその供給源を担ってきてきました(ベトナムやインドネシアはアラビカ種ではなくカネフォラ種の産地)。たくさんのコーヒーを安価に供給する生産国という位置付けです。
今回お世話になった輸出業者の言葉を借りると「他国より安いことがメキシココーヒーの唯一の特徴になってしまっている」というのがメキシコの一般的な姿で、高品質なコーヒーが流通することはほとんどないため、みなさんがスペシャルティコーヒー専門店で見かけることもなかったのです。


もう1つのメキシココーヒーを口にする機会に触れておきます。
オーガニックやレインフォレストアライアンスといった認証コーヒーです。
認証コーヒーにはポジティブな面と課題が混在し、軽々に語ることはできませんので詳しく取り上げることは避けますが、メキシコにおいては量の商売の生産国というベースに付加価値をもたらす手段として「認証」が活用されてきたと言って良いでしょう。
品質ではなく量の商売を展開する中で、やはり品質ではなくプロセスに対し認定される「認証」を取得することで付加価値を高めようというスタイルです。
他の生産国においても量の商売や認証コーヒーはあります。しかし、同時にスペシャルティコーヒーに代表される質のコーヒーも多く流通しています。一方でメキシコにはほとんど質のコーヒーの流通を見ることができませんでした。
なぜでしょうか?
スペシャルティ産地として発展してこなかった背景
その1「言語の壁」
一つは「言語」です。
「言語」と「コーヒーの品質」に何の関係があるの、と疑問に思うかもしれませんがとても大事なことです。
生産者が高品質なコーヒーを生産するための知識や技術を得るためには、知識・技術を持った人や媒体から学ぶことが近道です。人から学ぶためにはコミュニケーションが不可欠ですし、媒体から学ぶにも文章を理解できなければ不可能です。そこで必要となるのは共通言語です。
また、高い品質のコーヒーを生産できたとしても、その品質を理解し買ってくれるビジネスパートナーを得る必要があります。そこでもやはりコミュニケーションが必要となります。生産者と流通業者、消費国のロースター間での双方向のコミュニケーションがスペシャルティコーヒーのビジネスには不可欠で、そこでは共通言語がどうしても必要になってしまいます。


メキシコの言語環境を見てみましょう。
スペイン語が主要な言語である一方で、68もの先住民言語、364の方言が存在する多言語・多文化国家です。メキシコ政府は、すべての先住民言語をスペイン語と同等の「国家言語」として認めています。
中でもコーヒー産地であるメキシコ南部の州ではそれぞれに先住民がおり、部族の数は38にも及びます。コーヒー生産者もその半数以上が先住部族で、特にオアハカやチアパスはその割合が大きいと考えられます。
言語の多様性は文化の多様性の象徴とも言え素晴らしいことですが、メキシコにおけるスペシャルティコーヒーの発展においては、コーヒー生産者と生産者・流通業者・ロースターの間のコミュニケーションを阻む「言語の壁」となってしまっています。


補足としてあげる対照的な例はコスタリカです。
高い教育水準で識字率も98%を誇ることを背景に、高い知識と技術が広く生産者に普及しており、国全体で高い品質水準を実現しています。“スペシャルティコーヒー生産の先進国”として発展していると言って良いでしょう。
北中米の中で農業国から工業国へと向かい経済発展を遂げている、似通って見える近隣国ですが、コーヒー産業については対照的です(詳しくはこの特集を読み終えたあとに「CostaRica!スペシャルティの優等生「コスタリカ」その神髄を味わう-」もご参照ください)。
スペシャルティ産地として発展してこなかった背景
その2「物理的なアクセスの悪さ」
二つ目は物理的な「アクセスの悪さ」です。


こちらはメキシコ南部オアハカ州のコーヒー産地の様子。グァテマラのウエウエテナンゴやコロンビアのナリーニョを彷彿とさせる地形で、標高が高いエリアではしっかりとした寒暖差があり良質なコーヒーを産出できる環境が広がっていることを予感させてくれます。
その一方で、上の写真を見て多くの方が抱く感想は「だいぶ田舎だなー」だと思います。
その通り、だいぶ田舎です。山が入り組んでいて自然豊かな素晴らしいところです。見方を変えると、インフラが整っておらずアクセスに課題がある地域です。
実際、輸出業者に生産者の写真が欲しいとリクエストしたところ、「電波がないから現地から送ってもらうことはできない。訪問するにしても国内線で移動してから車で悪路を入っていくのでまとまった時間がかかってしまう。しばらく待ってほしい。」と返答がありました。写真一枚入手するのもなかなか大変という、日本で暮らしている私たちには想像しにくい環境であることを実感します。


こうした環境はコーヒー生産者にとって外部市場へのアクセスが制限されてしまうことを意味します。自分たちの生産したコーヒーを外に売りに行くことは難しく、買いにきてくれる仲買人が唯一の売り先であることがほとんどです(買いに来てくれるだけでありがたいとも言えるかもしれません)。買う側は言い値で買っていき、売る側は安値であったとしても「そういうもの」としか考えることはありません。他に売るすべはない環境ですから。
そして仲買人が集めたコーヒーは、最終的に10社程度しかない輸出業者へと流通し、オアハカのコーヒー、もしくはメキシコのコーヒーとして、品質やトレーサビリティに関心が払われることはなく“量の商品”として輸出されていきます。
このように、ポテンシャルを秘めた生産者がたくさんいたとしても、スペシャルティコーヒーを求めるロースターの声は「言語の壁」によって届けることが難しく、「物理的な壁」がさらに困難に、さらに流通までもを難しくしています。その結果として質のコーヒーは発展せず、量のコーヒー産地の側面が拡大していく。これがスペシャルティ・メキシコが流通していない要因です。
そして、堀口珈琲がこれまでメキシコを扱うことができなかった背景でもあります。実際に、稀に私たちの元にメキシコからサンプルが届いたとしても、スペシャルティと呼べるクオリティのものはありませんでした。
では、なぜ今回皆さまに素晴らしい品質のメキシココーヒーをお届けすることができたのでしょうか。
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堀口珈琲とメキシコ


きっかけは持ちこまれたサンプルから
2024年の某日。かねてより付き合いのあったコロンビアの輸出業者が複数のメキシコ産サンプルを携えて堀口珈琲の横浜ロースタリーを訪れてくれました。当社生豆バイヤーはその場でテイスティングを行い、「状態は落ちてるけどメキシコにこんなデリケートで素晴らしいコーヒーがあるなんて驚き、興味があるので詳細を聞かせてほしい」と伝えました。前シーズンのサンプルで状態が良くないことを認識していた彼らは「このコーヒーをきちんと評価してくれてうれしい、今シーズンの商品がもうすぐ仕上がるのでベストなサンプルを送る」と言ってくれました。
しばらくすると「送る」ではなく、またサンプルを携えて横浜ロースタリーまで来てくれました。一緒に入念にテイスティングし、スペシャルティと判断できたロットは全てその場で購入すると伝えました。その展開は予想していなかったようで彼女は驚いていました。それと同時にしっかりとワークすると決意してくれていたようです(後日聞きました)。


なぜここまで高品質なメキシココーヒーを作り出すことができたのでしょうか。
話を聞くと、
・かねてよりメキシコ南部に高いポテンシャルを感じていた
・メキシコの先住民部族にルーツを持つ社員が仲間に加わったことで、現地の生産者と言語的にも関係性としても良好なコミュニケーションが可能になった
・直接アクセスできるようになったことで、いままで品質関係なく混ぜられてしまっていたものを「分ける」ことで、トレーサブルで品質に特化したロットづくりが可能になった。
・生産者に対しコーヒー生産の知識や技術を伝えることもでき、さらなる品質の向上、生産性の向上に向けた活動も行えている。
とのこと。
「言語の壁」も「流通の課題」も自分たちで解消し、スペシャルティなメキシココーヒーを自分たちで作り上げていました。脱帽です。
そしてそれを、品質にうるさい日本のロースターすなわち堀口珈琲にいち早く届けてくれたのです。私たちを頭に思い浮かべてくれて感謝しかありません。
メキシコは基本の品種ティピカ・ブルボンの宝庫
私たちが大きな期待を寄せている理由に「品種」があります。
メキシコ南部の中でもアクセスの悪い山奥のコーヒー産地には、伝統的な品種であるティピカ・ブルボンが多く残されています。今回ご紹介している「ユクカフェ」もティピカとブルボンだけで構成されたロットです。
(2章でメキシココーヒーの風味を良質なハワイ「コナ」やジャマイカ「ブルーマウンテン」を彷彿させると書きましたが、この2つも同じく伝統品種ティピカの産地です)


ティピカとブルボンはスペシャルティコーヒーにとって基本となる重要品種です。そして失われつつある品種です。
なぜティピカとブルボンが「基本」なのかは特集「飲んで学べるスペシャルティコーヒー 基本の品種編」に詳しく語り尽くしていますので、ここでは気持ちをグッと抑えてなるべく簡潔に記載します。
・アラビカ種発祥の地エチオピアからイエメンを経由して世界中に広がったのがティピカとブルボンで現在栽培されているさまざまな品種のルーツになっている
・世界各地の様々な環境で栽培され、それぞれの産地の風味を体現してきた
というコーヒー伝播や品種変遷の歴史、コーヒーの味わいの歴史を経てきた品種であり、
・ニュートラルな風味( =「産地の違いを鏡のように映す」ことから、産地の個性を楽しむというスペシャルティの根源的な楽しみ方を支えている)
・クリーンな風味に仕上がりやすい( = 品種由来のネガティブな風味を回避でき、個性を阻害しないため、スペシャルティらしさである風味の特徴を捉えやすい)
というように風味傾向においてスペシャルティの基本となる品種であるためです。
こうした理由から、私たちはスペシャルティコーヒーらしいおいしさ、スペシャルティコーヒーらしい楽しみ方を支える品種として、長年に渡ってティピカとブルボンを大切にしてきました。
生産性や耐病性という観点からハイブリット品種への植え替えが進み、伝統品種は今や希少品種となりつつあるため、その想いをより一層強くしています。
メキシコにおいても2015年から始まった国家コーヒー強化プロジェクト(PIAC-PpB)のもと、生産性や耐病性の高いハイブリット品種の導入や一部低標高地域におけるロブスタ種の生産も進められています。
そのような流れにある中で、物理的に「アクセスの悪い」オアハカ州やチアパス州の奥地にはまだ伝統品種が比較的多く残っており、スペシャルティコーヒーという観点においては高いポテンシャルを秘めています。
私たちの観点では大切にしたい産地で、だからこそ熱視線を送っています。
※ハイブリッド品種はコーヒーを飲み続けるために必要な品種で、その全てを否定するものではありません。
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堀口珈琲のメキシコへの取り組みはこれから本格化します
今回のコーヒーを届けてくれた輸出業者がメキシコでのプロジェクトをスタートさせたのは2020年です。
定期的に現地を訪れて少しずつコミュニケーションを深め、農地や木の管理、収穫、その後の加工まで知識と技術の指導を行い、成果や改善点をフィードバックしながらさらに指導を続け、約4年の歳月を経た2024年に私たちの元に“スペシャルティ”のメキシコがもたらされました。
堀口珈琲の最初の仕事はきちんと評価することでした。


私たちのメキシコへの取り組みはこれから本格化していきます。
2025年、当社生豆バイヤーが実際にメキシコを訪れ今回紹介する生産者を含め現地を視察し、コミュニケーションをはかってくる予定です。いかんせんアクセスが悪い場所ですので、日本のスペシャルティロースターはもちろん、世界のロースターもまだ足を踏み入れたことがないであろう地域や集落、生産者にも訪問することになりそうです。
高いポテンシャルを有していながら量の商品としての流通を余儀なくされていた産地を実際に見た上で、どのような商品づくりをリクエストするのが適切か改めて現地で考え、生産者・輸出業者と話しあえることを楽しみにしています。それが素晴らしいコーヒーを皆さんにお届けできることに繋がることを期待もしています。
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そして、もしこの活動がスペシャルティの産地としての発展に繋がり、地域の豊かさに寄与できればとても喜ばしいことです。
「メキシコは中米諸国との比較において最も経済発展している国」で「北部のアメリカ国境付近や中部の首都メキシコシティ周辺では経済活動が盛ん」と上述しましたが、翻ってコーヒー産地のある南部は依然として伝統的な農業中心の経済が続いており経済格差は広がっています。こういった中で、スペシャルティコーヒーが地域の産業を活性化し、豊かさに繋がる一助となれれば、スペシャルティ・メキシコのおいしさはより深まるはずです。
堀口珈琲がコスタリカのチリポ地域やホンジュラスのセルグァパ地域にアクセスし発展の力添えとなれたように。
ただ、大失敗した時は温かい目で見過ごしてください。
いまはまだ黎明期です。
最初の1杯「ユクカフェ」をまず味わっていただいたら、次のコーヒーに期待を膨らませてお待ちください。
新しいスペシャルティコーヒー産地の発展を一緒に見守りながら楽しんでいきしょう。