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ただ苦いだけではないイタリアンローストの魅力
今回の特集は“イタリアンロースト”。
これ以上進むと焦げが優勢になってしまうギリギリの焙煎度、極めて深い深煎りコーヒーです。
トロりと広がる独特な舌触り、甘苦いダークチョコレートのニュアンス、華やかさ、果実味、スパイシーさ......。 深煎りのさらに先に進むと、そこには苦みと共に多彩な表情が存在する“極深煎り”の世界が広がっています。

闇雲にただ深く焙煎すればよい、という訳ではありません。
高品質な生豆の中でも酸や香りの元となる成分が極めて多く、極めて深い焙煎にも耐えうる密度の高さを備えた“限られた素材”だけが進むことができる領域です。
その素材に対して適切な焙煎を施すことで、コーヒーの風味を構成する要素全てが高い次元で引き出されたイタリアンロースト、焙煎由来の香りと共に素材由来の個性をも楽しめる“スペシャルティコーヒーならでは”のイタリアンローストが完成します。


“浅煎り偏重”ともいえる昨今、スペシャルティコーヒー専門店でイタリアンローストのコーヒーを見かけることはめったにありません。「飲んだことがない」という方も意外と多いのではないでしょうか。
当店では常に複数種類のイタリアンローストを当たり前のようにラインナップしていますが、それは最高品質の生豆調達に心血をそそぎ、「焦げのない、甘みを伴う柔らかな苦味」の深煎りを追求することで焙煎技術を磨きあげてきた堀口珈琲だからこそ実現できること、だと自負しています。
「なんだか苦味が強そうで…」と最初の一歩を踏み出せずにいる方には、ぜひ一度足を踏み入れていただきたいです。世界が広がります。
そこで今回は期間限定の特別ラインナップとしてエチオピア「ゴロ・ベデッサ」も加えて、4つのコーヒーをご用意してイタリアンロースト特集を企画しました。一度ハマったら抜け出せない魅力的なイタリアンローストの世界へと皆様を誘います。
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イタリアンローストのコーヒー4選とその味わい
まずは今回ご用意した4つのコーヒーの味わいを順番にご紹介していきます。
イタリアンローストは抽出にもコツがいりますので、実際に味わう際には3章に掲載している「抽出レシピ・コツ」を見ながら抽出してみてください。
2−1.ホンジュラス 「ラス・クレマス・デ・サンセバスティアン」
柔らかい口当たりに、イタリアンローストらしい力強い苦味とロースト香から始まります。次にカラメルのような濃密な甘みが立ち現れて広がり、舌の上で長く持続すると共にほんのりと柑橘やフローラルが鼻に抜け、重量感の中にどこか華やかな印象を残しながらフィニッシュに向かいます。焙煎由来の重量感とホンジュラスコーヒーらしい飲み心地のよさがバランス良く配置されています。
標高2,000m付近の高標高がもたらすボディの強さと、パカス品種由来と思われる複雑で豊かな果実味を備えているからこそ、イタリアンローストでもなおその個性を放つことのできる稀有なホンジュラスコーヒーです。
中米・ホンジュラスコーヒーらしい飲み心地の良さとイタリアンローストならではの重厚感のバランス
2−2.タンザニア 「ハイツ農園」
透明感すら感じるきれいな苦味と極深煎りのロースト香から始まります。次に感じるのは質感。あまりに角がなくきめ細かい舌触りのため軽やかなコーヒーだと一瞬錯覚してしまいますが、密度の高さと濃縮感はしっかり感じられます。「ハイツ農園」の特徴である柑橘とベリーのニュアンスがほのかに表れた後に、濃密な甘みがやってきて、再びほろ苦さが戻ってきます。最後に華やかな香り。
ここまで煎りこんでも、飲み込むまでに一切ひっかかりはなく、風味もしっかり感じられます。力強くも華やか、重量感がありつつも緻密で繊細な「ハイツ農園」ならではのエレガントなイタリアンローストです。
重量感がありつつも緻密で繊細な「ハイツ農園」ならではのエレガントな極深煎り
2−3.【期間限定】エチオピア「ゴロ・ベデッサ」
カップから立ち昇る香りの時点で果実がいることにまず驚きます。口に含むとロースト香に続いてスパイスを纏った華やかな香りが鼻に抜け、柑橘果実、白系果実、赤系果実といった複雑で豊かな果実の要素が立ち現れ、焙煎由来の力強い苦味と濃密な甘みと共にゆっくりフィニッシュしてきます。
二口、三口と飲み進めていくとその圧倒的な個性を下支えしている滑らかな質感の存在に気がつきます。イタリアンローストらしい粘性や厚みがありながらも、重すぎず心地よい密度感を保ち、軽やかな印象すらもたらしてくれています。
豊かな果実感が特徴のエチオピアコーヒー。その瑞々しい果実感を楽しむべく浅めの焙煎度で提供されることが多いですが、「ゴロ・ベデッサ」は極めて深い焙煎を施してもしっかりと果実が残る驚きのコーヒーです。標高2,400mという超高標高の環境で丁寧に仕上げられた“最高峰のエチオピア”とも言うべきコーヒーだからこそ実現できる、フルーティなイタリアンローストです。
高品質なイルガチェフェ・グジ産による圧倒的に“華やか”なイタリアンロースト
2−4.#9 DENSE&TRANQUIL
最後はブレンドです。
シングルオリジン単体でも優れた個性を放つのは、上述してきた通りです。ブレンドする目的はシングルオリジンでは成しえない“複雑な風味”の創造です。
9種類ある堀口珈琲の定番ブレンドの中で、唯一のイタリアンローストである「#9」。アタックの口あたりは予想外にかろやかに感じられると思います。なめらか過ぎる口あたりに“かろやか”と錯覚させられていたのかと気づく頃には、濃縮感と非常にしっかりした苦味・甘みが表れてきます。とろりとした粘度のある口あたりを感じながら、余韻のパートに入る頃にほんのりと果実が感じられ、そこに現れるドライな感覚と共に蒸留酒を想起させてくれます。
飲み進めるほどに静けさの中に入っていくような、別の世界や時間軸へいざなわれるような感覚さえも覚えます。ブレンドの奥深さを体現する、不思議な魅力を放つ孤高のコーヒーです。
“複雑な風味”を体現する極深煎りのスペシャルティブレンド
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抽出のコツは「いつもよりじっくり淹れて仕上げる」
イタリアンローストならではの重量感のある質感やしっかりとした苦み・甘みを楽しむにおいては、抽出にも少しコツがいります。 キーワードは「じっくり淹れる」です。 レシピ表と動画をご用意しましたので、淹れる際のご参考にどうぞ。

【抽出のコツ】
お湯を注ぎすぎないように我慢しながら小刻みに抽出するイメージで。15gでの抽出が難しければ、25gのレシピでいれてみると少しだけやりやすいかもしれません。
<ポイント>
注ぎ始めは少量の湯を静かに注いで粉にお湯を浸透させます。30〜40秒前後でサーバーに抽出液がポタポタ落ち始め、注ぐ量を少しずつ増やして80秒前後で抽出液のポタポタが線状になるように。抽出前半はいつも以上に「じっくり」を意識します。
その後は表に記載の抽出時間くらいで目標の抽出量に達するよう注ぐペースを徐々に早くしていきます。
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もっとイタリアンローストを知る
ここからはイタリアンローストに関する「知識面」を少しだけ。興味を持っていただいた方はぜひお付き合いください。
そもそも焙煎度とは


生豆に鼻を近づけても私たちが想像するコーヒーの香りはしません。生豆を煮出してみてもコーヒーらしい風味は感じられません。私たちがコーヒーらしい風味を楽しむためには生豆に焙煎を施す必要があります。これを担当するのが我々ロースターの役目で、「どこまで加熱するか」と「どのように加熱していくか」を素材ごとに適切に判断し、実行します。


“焙煎度”とは「どこまで加熱するか」を示すものです。日本では焙煎度を8段階に分けて表現することが一般的です。浅煎りから順に、ライトロースト、シナモンロースト、ミディアムロースト、ハイロースト、シティロースト、フルシティロースト、フレンチロースト、イタリアンロースト、です。
今回のテーマは「イタリアンロースト」なのでひとつひとつを解説は割愛しますが、詳しく知りたいかたはぜひこちら(特集:飲んで学べるスペシャルティコーヒー焙煎度編)をご参照ください。


一般的に焙煎を進め、深煎りの領域まで進行すると「かろやか」なコーヒーから「しっかり」とした味わいのコーヒーへ向かっていきます。 浅煎りのコーヒーでは快活な酸や瑞々しい果実感、そして華やかな香りを感じやすく、焙煎が深くなるにつれ苦みと甘み、口当たりのきめ細やかさやなめらかさ、濃度や密度、粘度を感じやすくなります。 「苦み=焦げ」として、ネガティブにとらえる人もいますが適切に焙煎をしていけば、「渋みや焦げ」を伴わない、“コーヒーらしいきれいな苦み”をしっかりと感じさせてくれます。極めて焙煎度が深いイタリアンローストにおいてもです。
イタリアンローストにおける「適切な焙煎」と「素材選定」
「適切に焙煎をしていけば」と言うのは容易いですが、イタリアンローストの領域まで焙煎を進める場合、豆に対しての火力の当て方や排気の絞り方、煎り止め(焙煎を終了するタイミング)は一層気を付けなくてはなりません。


深い焙煎がなぜ難しいのかを簡単にお伝えすると、浅い焙煎よりも長い時間高温で焙煎するため、豆の中に熱が入りすぎて焦げた味(ベイクド)が出やすく、焙煎機の中に煙が充満し燻り臭(スモーキー)が味わいとして感じられやすいからです。敢えてスモーキーなニュアンスを創る場合もありますが、“スモーキーさは出しつつも焦げ臭さは一切出さない“というのも至難の業で、ポイントとなる煎り止めの一瞬を見極めなければなりません。


また、イタリアンローストの場合は「適切な焙煎」の前段にある「素材選定」も非常に重要です。どんなコーヒーでも深く焙煎していけばいずれは焦げます。その焦げのニュアンスが比較的早く出てしまうような繊維質の柔らかいコーヒーはイタリアンローストには不向きです。またコーヒーは、深く焙煎することで「スモーキー」なフレーバーを帯びてきます。スモーキーなフレーバーと調和するような複雑な香りと甘さやコクを感じさせるコーヒーでなくてはなりません。


酸や香りの元となる成分が極めて多く、極めて深い焙煎によってしっかりと加熱されることで、コーヒーの風味を構成する要素全てが高い濃度・密度で引き出される素材。豆の構造が頑強で壊れにくい、密度の高い素材。
この素材に対し、偏りが発生しないようコントロールしながら焙煎を進め、焼けた風味・焦げを抑制することができれば、スペシャルティコーヒーらしいイタリアンローストとなる訳です。
「イタリアンローストはとにかく苦いだけのコーヒー」
今回ご紹介した4つのコーヒーは、そんな先入観をわかりやすく覆してくれるはずです。最高品質の生豆調達と、磨き上げてきた焙煎技術によって実現できる極めて深い深煎りコーヒー。
これを機に今後の選択肢の一つに加えていただければ幸いです。